きみの騎士

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残念なのでした

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 速い――――!!

 この間の闇鎧とは格が違った。

 油断していたからじゃない、目の前で見ているのに、見えなかった。
 殴られた瞬間さえ、リイには剣の軌道も、じいちゃんの動きも見えなかった。


 じいちゃんが何をしたのかもわからないまま、脳天をかち割られそうな勢いで殴りつけられたリイは吹き飛び、後ろの大樹に激突する。


「いったぁあぁあああ――――――!」

 頭を押さえたリイは、ぱたりと倒れた。



 ぐわんぐわん、頭が回る。
 ぐわんぐわん、記憶が回る。

 父ちゃんの笑った顔、怒った顔、ルフィスの泣き顔、花のような微笑み、ぐるぐる回る向こうに、高い塔が見えた。


「………………え………………?」

 林立するビルを掻き分けるように、スーツケースを抱えた人が行き交う。
 ぎゅう詰めの電車で出勤する人々の顔は、マスクだらけだ。
 スマホの画面は今日のニュースを流し、ユーチューバーが歌って踊る。
 楽しみにしているオンライン小説の次の話の更新時間まで、たぶん後10分。


 ………………………………。


 は????


 痛い頭を振ってみる。

 目の前の景色は、山奥だ。
 やりすぎたかと心配そうにリイを覗き込むじいちゃんの、白い髭が揺れている。

 頭のなかに流れるのは…………日、本……の記憶…………?
 両親や家族の面影は霞み、ただその世界で生きて死んだ、朧な記憶だけがあった。


「い、異世界転生だ――――!」

 痛い頭を抱えて、リイは飛びあがる。


 憧れの異世界転生!
 死んだら是非やってみたかった異世界転生が来たよ!!


 痛い頭で飛びあがったリイは、ずり落ちるように蹲る。


 レイサリア光国も光騎士も、リイが知るゲームでも漫画でもオンライン小説でもない。

 縋るように思い出そうとする頭は、オンライン小説の『次の話』をタップできないことでいっぱいだ。



 残念な異世界転生だ――――!!

 痛い頭が、もっと痛くなった。





 半泣きで倒れたリイの頭を、じいちゃんの皺と骨の手が撫でてくれる。
 ぽわんとやさしく光が燈り、痛みが消えた。

 あまりの衝撃に、異世界転生の衝撃も吹き飛んだ。


「す、すすすすすごい!!
 じいちゃん、魔法が使えるのか!」

 こくりと頷くじいちゃんが、リイの頭をぽふぽふする。


「大丈夫。痛くなくなった。
 じいちゃん、すげえ!!
 あ、違った」

 リイは、ぴしりと背を正す。


「師匠!
 ご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申しあげます!」

 垂直に頭をさげる。

 こういう知識はあるみたいだよ。
 残念な異世界転生……!


 無言なじいちゃんに、そうっと頭をあげると、じいちゃんは仄青い瞳を細めて、こくりと頷いてくれた。






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