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鍛錬開始!
しおりを挟む山を庭のように駆けたリイは、山の北の端、隣国で敵国の国境に近いところに建つ、今にも潰れそうな小屋の扉を叩いた。
「おはよう、じいちゃん。
饅頭持ってきた! リイだよ。
大事なお願いがあるんだ」
ガタゴト、小屋の奥で音がする。
ゴトンと音がして、扉のつっかえ棒が外された。
皺と骨と皮みたいになったじいちゃんが、真っ白な頭と真っ白な髭を覗かせる。
「饅頭!
まだあったかいよ」
受け取った老爺は、ほんの少しだけ唇をほころばせた。
長い髭が、かすかに揺れる。
首を傾げる老爺を、リイは見あげる。
「じいちゃん、昔、剣豪だった?」
ほのかに青みがかった、白く濁る瞳が遠くなる。
「俺、至光騎士戦で優勝して、騎士になりたいんだ。
俺に剣を教えてください!」
垂直に頭をさげた。
無言なので、そうっと顔をあげてみる。
長く白い髭をしごいたじいちゃんは、首を傾げた。
「守りたい人がいるんだ。
絶対、傍にいく。
俺が守る!」
拳を掲げるリイに、じいちゃんは仄青い瞳を細める。
リイの頭を、皺と骨の手が撫でてくれた。
「お、教えてくれる?」
こくりと老爺が頷く。
「ありがとう、じいちゃん!
御礼は、俺にできることなら何でもするから。
騎士になったら仕送りするから!!」
ほんの微かに笑んだ老爺は首を振った。
皺と骨の手が、リイの頭をぽふぽふした。
「鍛錬って、何をしたらいい?」
わくわくしながら聞くリイに、じいちゃんはちょっと手を挙げて振る。
ぴーっと辺りを指すのに、リイは首を傾げた。
「走れって?」
こくりと頷くじいちゃんの前で、リイは駆ける。
じいちゃんが手を振った。
「全速力?」
こくりと頷くじいちゃんの前で、リイは全身の力を籠めて駆けた。
あんまり必死で駆けたから、ぶつかりそうになった樹を駆けあがってしまい、てへへと頭を掻く。
タンと、ひと飛びで大樹から降りたら、あんぐり口を開けたじいちゃんは白い髭をしごいた。
潰れかけの小屋に戻ったじいちゃんが、木切れを2つ持ってやってくる。
それは剣みたいな不思議な形をしていた。
ひょいと1つを投げられて、受け取った。
くいくい、じいちゃんが手招きする。
「かかってこい?」
こくりと頷くじいちゃんの枯れ木のような手足を見つめて心配になる。
「じいちゃん、だいじょうぶ?
古傷が悪化したりしない?」
瞼に埋もれそうな瞳を見開いたじいちゃんの唇が、かすかにほころぶ。
こくりと頷いたじいちゃんは、またくいくい、手招いた。
「いきます!」
剣みたいな木切れを、ぶんと振ったリイは、駆けだした。
じいちゃんに向かって振りかぶる。
その瞬間だった。
グオォゴァア――――!!
凄まじい殺気が吹きつけ、撃ち込んだリイの剣が弾かれる。
ズガァアン――――!!
衝撃がリイの頭を襲った。
――――――――――――――――――――――――――――――
読んでくださる方、お気に入りに入れてくださった方、エールをくださった方、まだ序盤なのに投票してくださった方!
涙が出るくらい、うれしいです。
ほんとうにほんとうに、ありがとうございます!
かっこいい王太子とルフィスとリイが書けるように頑張ります。
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