【完結】きみの騎士

  *  

文字の大きさ
上 下
18 / 152

鍛錬開始!

しおりを挟む



 山を庭のように駆けたリイは、山の北の端、隣国で敵国の国境に近いところに建つ、今にも潰れそうな小屋の扉を叩いた。

「おはよう、じいちゃん。
 饅頭持ってきた! リイだよ。
 大事なお願いがあるんだ」

 ガタゴト、小屋の奥で音がする。
 ゴトンと音がして、扉のつっかえ棒が外された。

 皺と骨と皮みたいになったじいちゃんが、真っ白な頭と真っ白な髭を覗かせる。


「饅頭!
 まだあったかいよ」

 受け取った老爺は、ほんの少しだけ唇をほころばせた。
 長い髭が、かすかに揺れる。

 首を傾げる老爺を、リイは見あげる。


「じいちゃん、昔、剣豪だった?」

 ほのかに青みがかった、白く濁る瞳が遠くなる。


「俺、至光騎士戦で優勝して、騎士になりたいんだ。
 俺に剣を教えてください!」

 垂直に頭をさげた。

 無言なので、そうっと顔をあげてみる。

 長く白い髭をしごいたじいちゃんは、首を傾げた。


「守りたい人がいるんだ。
 絶対、傍にいく。
 俺が守る!」

 拳を掲げるリイに、じいちゃんは仄青い瞳を細める。

 リイの頭を、皺と骨の手が撫でてくれた。


「お、教えてくれる?」

 こくりと老爺が頷く。


「ありがとう、じいちゃん!
 御礼は、俺にできることなら何でもするから。
 騎士になったら仕送りするから!!」

 ほんの微かに笑んだ老爺は首を振った。

 皺と骨の手が、リイの頭をぽふぽふした。







「鍛錬って、何をしたらいい?」

 わくわくしながら聞くリイに、じいちゃんはちょっと手を挙げて振る。
 ぴーっと辺りを指すのに、リイは首を傾げた。


「走れって?」

 こくりと頷くじいちゃんの前で、リイは駆ける。
 じいちゃんが手を振った。


「全速力?」

 こくりと頷くじいちゃんの前で、リイは全身の力を籠めて駆けた。
 あんまり必死で駆けたから、ぶつかりそうになった樹を駆けあがってしまい、てへへと頭を掻く。

 タンと、ひと飛びで大樹から降りたら、あんぐり口を開けたじいちゃんは白い髭をしごいた。

 潰れかけの小屋に戻ったじいちゃんが、木切れを2つ持ってやってくる。
 それは剣みたいな不思議な形をしていた。

 ひょいと1つを投げられて、受け取った。

 くいくい、じいちゃんが手招きする。

「かかってこい?」

 こくりと頷くじいちゃんの枯れ木のような手足を見つめて心配になる。


「じいちゃん、だいじょうぶ?
 古傷が悪化したりしない?」

 瞼に埋もれそうな瞳を見開いたじいちゃんの唇が、かすかにほころぶ。
 こくりと頷いたじいちゃんは、またくいくい、手招いた。


「いきます!」

 剣みたいな木切れを、ぶんと振ったリイは、駆けだした。
 じいちゃんに向かって振りかぶる。

 その瞬間だった。

 グオォゴァア――――!!

 凄まじい殺気が吹きつけ、撃ち込んだリイの剣が弾かれる。


 ズガァアン――――!!

 衝撃がリイの頭を襲った。






――――――――――――――――――――――――――――――

読んでくださる方、お気に入りに入れてくださった方、エールをくださった方、まだ序盤なのに投票してくださった方!

涙が出るくらい、うれしいです。

ほんとうにほんとうに、ありがとうございます!

かっこいい王太子とルフィスとリイが書けるように頑張ります。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
『イケメン村で、癒しの時間!』 あやしさ満開の煽り文句にそそのかされて行ってみた秘境は、ほんとに物凄い美形ばっかりの村でした! おひめさま扱いに、わーわーきゃーきゃーしていたら、何かおかしい? 疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

豊穣の女神は長生きしたい

碓井桂
恋愛
暴走車に煽られて崖から滑落→異世界転移した紗理奈は、女しか転移してこないが結構な頻度で転移者のいる異世界に出現した。転移してきた女の持つチートは皆同じで、生命力を活性させる力。ただし豊穣の女神と呼ばれる転移者の女は、その力で男を暴走させてしまうため、この世界では長生きできないという。紗理奈を拾った美しい魔法使いの男ヒースには力は効かないと言うけれど……ヒースには隠し事があるらしい。 こちらの小説はムーンライトノベルズに以前公開していたものを改稿したもので、小説家になろうにも載せています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...