きみの騎士

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魔法使い

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「僕のせいでリイが傷つくなんて、絶対いやだ!!」

 きょとんとしたリイは、震えるちいさな肩を抱きしめる。


「愛する人のために傷つくのは、勲章なんだって」

 胸を張ったリイに、ルフィスが真紅に染まる。


「……あ、愛して、くれる、の……?」

「うん!」

 燃える頬で、笑う。


 すきとか、愛とか、まだよく解らないけれど。



 すきになるなら、ルフィスがいい。

 愛してるのは、ルフィスがいい。



 真っ赤なルフィスが手を握って、恥ずかしそうに、とびきりうれしそうに、とろけるように笑ってくれる。

 一緒に手を繋げたら、ふたりでどこまでも行ける気がする。


 どこまでも、ふたりで。

 どこまでも、ずっと、ずっと。








 春の夜の山に、耳を澄ませる。

 狼の遠吠え、ふくろうの鳴き声、鹿が枯れ葉を踏みしめる音に混じる、人間が立てる音を選り分けるように、リイは目を閉じる。

 近づこうとする足音と気配がないことを確かめたリイは、吐息した。


「ちゃんと撒けたみたい。
 ……あんな山奥の洞窟にまで来るなんて」

 リイの呟きに、ルフィスは細い眉を顰める。


「……魔術士が来てるのかもしれない」

 ちいさな声に、目を瞠る。


「魔術士!」

 リイにとって、魔法は夢物語みたいなものだ。
 レイサリア光国では使える人がいると聞いてはいたが、身近にはいない。

 平民には魔力の多い者は少ないらしく、魔力があったとしてもよく解らず、教育も受けぬまま終わってしまう者が多いのだという。

 生まれた時に魔力の有無を確かめられ、魔術学院に通え、その使い方を学べる貴族たちがその才を開花させると言われている。

 なので、リイは魔法を見たことがない。
 魔法使いも、見たことがない。

 あんぐり口を開けるリイに、ルフィスはちいさく笑った。


「僕も使えるよ、魔法」

 ふわりとルフィスの指に、光が燈る。


「ふわぁあああ……!」

 大声を出してしまいそうだったのを、慌てて呑み込んだ。


「ルフィス、すごいすごいすごいすごいすごいすごい!!」

 飛び跳ねて拍手するリイに、照れくさそうにうれしそうにルフィスが笑う。


「ほとんどの魔力は封じられてるけど、明かりくらいは」

 ルフィスの言葉に、リイは唇を噛んだ。


「……ルフィス、監禁されて、酷いことされてるの?」

 リイの囁きに、ルフィスは目を伏せる。


「……部屋から、出れない。
 光国の最果てにあるこの山に来れたのは……殺されるためだと思う」

「ルフィス――――!」

 リイの悲鳴に、ルフィスはやわらかに蒼碧の瞳を細める。


「哀しんでくれたのは、泣いてくれたのは、リイだけだよ」

「ルフィスは、俺が絶対、絶対、絶対守るから――――!!」

 叫んだ瞬間だった。


 山の大気を裂くように、紫紺の光が走る。


「ぐ、ァア――――!」

 雷の直撃を受けたように、リイの身体が硬直した。







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