【完結】もふもふ獣人転生

舞踏会編

もしかして

　リトは、目を瞠る。

　人間が操れるだろう魔力を遥かに超える力が、闇の髪に闇の瞳の凛々しい少年から、噴きあがる。

　……ちがう。

　ただしくは、少年を守るように──たくさん、精霊が、いる……？

　こんなに精霊に愛される人を、見たことがない。
　闇龍のレォンが警戒した意味が、すぐ解る。

　魔力だけじゃない、ジゼの鍛錬を見てきたリトには解る。

　隙が、微塵もない。

　──強い……！

　ジゼを背に庇おうと、前に出たリトに、身一つでありえない高所に飛んできた少年が、ぴょこんと跳ねた。

「ぎゃ──！　なんか、めちゃくちゃかわいーのが乗ってるぅう──！」

　叫ばれました。

　闇の瞳が見てるのは……リト……？

「とーや、また、うわきする──！」

　少年に抱えられた、ちっちゃな愛らしい少年に、なじられたとーやが、ちいさく笑った。

「知っていますか、ロロァさま。獣人は人類の夢なんです。
　もふもふは正義です──！」

　拳を握ったとーやが、笑う。

「いらっしゃい、バギォ帝国へ！　龍のきみと、獣人のきみと、そちらは……ちっちゃいジゼさまァア──！？」

　仰け反られたジゼも、あんぐりしてる。


　ジゼしゃまを、知って、る……？

『いらっしゃい』言ってくれたということは、敵対の意志はないのかな？


　この闇の髪の少年には、リトもジゼも負けると思う。
　闇龍レォンが出てくれないと、どうにもならない強さだ。

　分かっているのだろう、レォンが巨大な翼を広げる。

『リト、警戒を怠るな！　もしものときは、僕が出る！』

「うわあん！　ありあと、ござまし、レォンしゃま！」

　おっきな首に抱きついたら、とーやの目が見開かれた。


「ぎゃ────♡♡♡　か──わ──い──い──♡♡♡」

　もだもだしてる……！


「………………とーや…………？」

　ちっちゃなロロァの声が、大地を這ってる。

　ジゼの目が、めちゃくちゃ切れあがってる──！



「あ、あの、あの、敵、じゃ、なぃ、でし、あ？」

　ジゼが抱っこしてくれる腕のなかで、こんな時なのにぽふぽふしちゃうしっぽで、聞いてみました。

「なんだこの可愛い生き物は──！」

　真っ赤なとーやが、もだもだしてるので、代わりに腕のなかのちっちゃなロロァが手を挙げる。

「僕ら『よい子の隠密団』です！　とーやが、龍を見たいって言うから、来たの。僕は、とーやの、うわき防止で、ついてきたの」

「おぉ！」

　こっそり観察するはずが、正面からご対面してしまいました！

　あわあわするリトのしっぽが、ぼふぼふして、なだめるようにジゼが、よしよしなでなでしてくれる。


　うっとりしちゃうから、だめでしあ！

　ちょっとうるんだ目で見あげたら、ジゼの微笑みが、とろけてる。

　はぅあ♡

　今日もジゼしゃま、かっこいー♡


　とろけるリトの向こうで、ちっちゃなロロァの幼い声がする。

「はじめまして、龍さん。僕、ロロァです」

　丁寧に頭をさげてくれる藍の髪が、さらさら揺れる。

　おっきな藍の瞳で、おっきな龍にちょっとびっくりしている赤いほっぺで、見あげてくれるロロァが、めちゃくちゃ、かわいー！

　ロロァを抱っこしているとーやも、あわあわ頭をさげてくれた。


「はじめまして、バギォ帝国で『よい子の隠密団』をやってる、透夜です」

『透夜』
　なつかしい発音だった。
　──日本語だ。

　リトは、目を瞠る。


「もしかして、ドディア帝国の次期筆頭侯爵、ジゼ・ディオ・ジェディスさまですか？　攻略対象の？」


　もしかしなくても、転生者だ──！