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舞踏会編
ご招待
しおりを挟む謁見の間での公示が終わったら、帝太子ルァル殿下の執務室でお茶会という名の打ち合わせだ。
リトもいちおう関係者なので、ジゼと一緒に初めて帝宮の最奥に鎮座する帝太子執務室にお邪魔した。
天井まで届く本棚にはぎっしり本が詰まり、ドディア帝国中から集まる報告書や陳情書、法案であふれかえる執務室は、インクと紙の匂いがする。
中央には、ひと息いれたり、宰相と相談したりするためなのだろう、飴色の丸い卓が置かれてあった。
皆に円卓につくように促したルァルがリトを振りかえる。
「リト、茶を頼む」
「あい!」
ぽふぽふのしっぽで手を挙げたリトは、ルァルの従僕が持ってきてくれた沸かしたてのお湯と、たくさんの茶筒を受けとった。
お疲れらしい皆のこのみに合った、元気の出るお茶を淹れてゆく。
「……リトの茶は絶品だな」
ひと口含んだルァルが笑ってくれる。
「毎日お茶淹れに来てほしいよ」
「元気出た」
次期筆頭侯爵で魔法使いのノァと、次期騎士団長最有力でルァルの護衛でもあるカィトが笑ってくれる。
「おいしい。ありがとう、リト」
ジゼがふうわり微笑んでくれたら、何よりうれしい。
「しっかしジゼとリトが総指揮官かあ。能力的には問題ないけど、ちっちゃくない?」
「ちっちゃくない!」
ノァの『ちっちゃい』に猛抗議するジゼが、激おこだ。
「ジゼしゃま、おっきい、でし!」
ふわふわ熱い頬で見あげたら、ごつごつの手でなでなでなでなでしてくれるジゼが、やさしい。
「まあ、うん、12歳にしてはおっきいと思うけどさ、成人に比べるとちっちゃいわけだよ。子どもが運営してる国かよって言われない?」
もっともなノァの指摘に、帝太子ルァルが鼻を鳴らす。
「子どもな俺が運営してるからな」
積みあがる法案をぽんぽんたたくルァルに皆が笑った。
「子どもだと侮るなら、それまでだろう。子どもが総指揮官を担うほど優秀なのかと敬意をもってくれる国か、判別できていいだろう」
カィトの言葉に頷いたルァルが、ジゼを見る。
「やってくれるか」
ジゼの長々した溜め息に、ルァルがびくっとしてる。
「そういうのは公示前に根回しするべきでしょう」
「だって断るだろ」
「当たり前です! リトがかわいー♡ のは、俺だけが解っていればいいんです!」
ぎゅむむ。
抱っこされて、とろけるようなジゼの香りに包まれたら、ふんふんしてうっとりして、しっぽがぽふぽふしてしまうのです。
「……は!」
あわあわしたリトが、そっとジゼの胸に手をついた。
「ジゼしゃま、皆、見てゆ……!」
「知ってる」
……そうでした。
「いいなあ、ジゼ。僕も恋人ほしくなっちゃうなあ」
頬杖をつくノァの隣で、カィトが手を挙げてる。
「意見があるなら言ってみろ」
ルァルの言葉に、瞬いたカィトが、ぷるぷるしかけて止まる。
「今回は、どの国を招待するんだ?」
「ああ、隣国のゾンデ王国は今、魔界と繋がった影響で殆どの魔法使いが倒れているし事後処理で大変だからな、お見舞いを贈るだけに留めようと思う」
「それがいいよ」
「ナティは淋しがるかもしれないが、来たいなら転移門からおいでと言っておくよ」
「ルァルさま、やさしー」
にこにこするノァに、照れ照れなルァルが可愛い。
「で?」
どこの国を招待?
聞いたカィトに、ルァルは告げる。
「敵国、ネメド王国だ」
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