175 / 207
おまけのお話
こいがたき
しおりを挟むエゥリケ王国から帰ってきてから、ふくれていたテデがしょんぼりしている。
リトの耳もしっぽも、ぺしゃんとしてる。
「あ、あの……テデ……」
何を言えばいいんだろう。
ジゼを想っていた気持ちは、リトとおなじだ。
リトより長い間、テデはずっとジゼを想ってきたのだろう。
横から飛んできたもふもふに、ジゼを奪われてしまったテデの痛みと苦しみは、どれほどだろう。
思うだけで、胸が塞がる。
ちょっと顔をあげたテデは、ふくれた頬で呟いた。
「お茶淹れてよ、リト」
「あい!」
ぴょこんと跳びあがったリトは、あわあわ厨房へと向かい、茶筒の棚へと引きずる足で駆け寄った。
テデが後ろからついてきてくれる。
厨房の隅にしつらえられた椅子をひいたら、座ってくれた。
茶棚の前へと戻ったリトは、しょんぼりした気持ち、辛い思いを、やさしく包みこんで癒してくれる香りのお茶を、テデのすきなお茶から選んでゆく。
お茶にぴったりなお菓子をガチムチ料理長コゴにお願いしたリトは、心をこめて最適な配分となるようお茶の葉を混ぜ合わせた。
傷ついた心が、すこしでも癒されますように。
そんなの、リトに一番祈ってほしくないかもしれないけれど。
それでも願わずにいられない。
テデだけの誰かが、はやく、はやく、見つかりますように。
それがリトに飽きたジゼだったとしても。
『ジゼは、渡せない』とは思わない。思えない。
ジゼはリトにとって、最愛の推しで、天上の人で、ふれられるなんて思ってもみなかった。
こちらを向いてくれて、話しかけてくれるだけで奇跡なのに。
救ってくれた。
愛してくれた。
ゆめみたいで。
ほわほわしてる。
だから夢から覚めたジゼが、ずっと支えてくれて愛してくれたテデを選んでも、当然だと思ってしまう。
「こら」
テデの指が、リトのおでこを弾いた。
「いたぃたでし」
おでこを覆ったリトに、テデが笑う。
「あんぽんたんなこと、考えただろう。それってジゼさまに、めちゃくちゃ失礼なんだよ、わかってる?」
リトは、目を伏せる。
「……でも、僕……」
「自信ないのは、わかるよ。僕もそうだった。ゆめみたいで、ふわふわする気持ちもわかる。ジェディス邸に雇ってもらえて、ジゼさまのお傍でお仕えできるようになった僕も、そうだった」
目を細めて、テデが笑う。
「自信をもって、笑顔で、ジゼさまの傍にいてよ。でないと僕も、アオも、救われない」
ぎゅ、と唇を噛んだリトの頭を、テデの指がわしゃわしゃ撫でる。
「リトがそんな顔してると、誰もしあわせになれない。次に行けないんだよ。ね?」
やさしい瞳で、笑ってくれる。
「リトー、茶菓子できたぞー!」
「ありあと、ござまし!」
焼きたてのお菓子をコゴから受け取ったリトは、お茶を淹れる。
テデを思って、テデの心が元気になるよう、心をこめて、お茶を淹れる。
「どぞ、でし」
「いい香り」
目を細めたテデが、カップに唇をつけて、囁いた。
「リトの気持ちが、いっぱい籠もったお茶だ」
恋敵に、笑ってくれる。
「ふぇ……! テデ……!」
抱きつくリトを、テデの腕が抱きとめる。
「世界でいちばん、しあわせになって。そしたら僕も、世界でいちばん、しあわせになるから」
やさしい瞳で、笑ってくれる。
「テデ、大しゅき、でしあ!」
涙と叫んだら、ぷっくりふくれたジゼが顔を覗かせる。
「リト、早速浮気だなんて、酷すぎると思うんだが」
テデはうるんんだ瞳で、ジゼを見つめる。
「ジゼさま、世界でいちばん、しあわせになってください」
瞬いたジゼは、微笑んだ。
「もうすでに、世界でいちばん、しあわせだ」
くしゃりと顔を歪めたテデは、振り切るようにおもてをあげる。
「リトは?」
聞いてくれるテデに、ごしごし目をぬぐったリトは、笑う。
「世界、いち、しぁわせ、でし!」
「よし」
わしゃわしゃ頭を撫でて、笑ってくれた。
────────────
読んでくださって、心からありがとうございます!
あ。 様が読みたいと言ってくださった、テデとリトのお話でした!
テデもきっと、世界一しあわせになると思います!
めちゃくちゃ執着されてデロ甘なほど愛されればいいと思います(笑)
975
お気に入りに追加
3,828
あなたにおすすめの小説
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は?
最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか?
人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。
よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。
ハッピーエンド確定
※は性的描写あり
【完結】2021/10/31
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ
2021/10/03 エブリスタ、BLカテゴリー 1位

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる