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 レォンが大きなお背なにリトとジゼとアオを乗せてくれた。
 魔界の底から人間界へと舞いあがる。

 巨大な闇の翼が羽ばたいた次の瞬間、魔界との境界の隙間を擦り抜けた。

 境界を塞ごうと魔力を振り絞る皆を覆うように、魔界からあふれる瘴気の渦が、止まらない。

「ぐぅ──!」
「ま、魔力が、もう……」
「踏ん張るのじゃ、倒れてはならん──!」

 ルァルが、アリアスが、ノァが、おじいちゃんが、魔導士たちが懸命に杖を掲げてる。

「食い止めるぞ……!」
「一匹も通すな!」
「魔導士を護れ──!」

 境界から溢れ落ちる瘴気に吸い寄せられるように、瘴気に侵された魔物の群れが襲い来るのをナティとカィト、騎士たちが止めていた。
 倒れた魔導士や騎士たちを回復してるテデの魔力が消えてしまいそうに揺らめいた。

「加勢する!」

 レォンの背から飛び降りたジゼとアオが魔物の進撃を止めようと剣を掲げる。

「グァアァオォオオオ──!」

 威嚇の声をあげてくれるレォンに、魔物たちが脅えたように硬直した。


『今だ、リト──!』

 レォンの背で、リトはちいさな胸に手をあてる。


 おかあさんの血が、おとうさんの血が、僕をつくってくれた。
 おかあさんの力が、おとうさんの力が、この身に宿ってる。

 相反する力が、リトのなかで溶けあってる。

 つなげたのは、両親の愛だ。


 いらない子じゃ、なかった。
 伝説の力が枯渇するほど、リトを望んでくれた。


 BLゲームには姿さえなかったけれど、この世界でリトは確かに生きていて、ジゼに救われて、ジゼを愛した。


 それはきっと、おかあさんが、おとうさんを愛したのと同じ、奇跡で。

 奇跡の満ちたこの身なら、きっと、奇跡を現にできる。



 この身には、おかあさんの血が、おとうさんの血が、おかあさんの愛が、おとうさんの愛が、あふれてる。

 この世界を、皆を、ジゼを愛するきもちも、きっとやさしい力になる。


 リトの胸から、透きとおる光が噴きあがる。

 視界が真っ暗になるほど溢れ満ちていた瘴気の渦が、揺らいだ。

 輝く光につつまれた瘴気が、光の粒と溶けてゆく。

 瘴気に侵され魔物と化したすべてに、光の雨が降りそそぐ。
 口から目からあふれていた真っ暗な瘴気の靄が、光の粒に溶けてゆく。

 倒すんじゃない。
 滅するんじゃない。

 やさしく包んで、もとの世界へ。

 皆があるべき場所へ。


 そう、浄化は、亡ぼすんじゃない。
 瘴気を糧に生きる、瘴気を大切にする魔界に、返すんだ。


 ちいさなリトの身体が、あふれる光に溶けてゆく。
 獣人の身が、おとうさんとおそろいの、ましろな獣に変わってゆく。


「ラヴァリア──!?」


 驚愕に叫んだ皆が、光の化身のようなリトの前に膝をつく。


「伝説の、ラヴァリア……!」

「拝謁が叶うとは!」

「光臨してくださると、信じておりました──!」

「世界をお救いくださった!」

「ありがとうございます……!」

 やさしい光につつまれた世界で、皆が泣いてる。



 リトの前に舞い降りたおとうさんが、微笑んだ。


「よくやった、リト。一緒に帰ろう、精霊界へ」

 やさしい手を伸ばしてくれる。


「魔界は?」

 ちょっとふくれた頬で舞い降りたおかあさんが、あたたかな手を伸ばしてくれる。


「一緒に、暮らそう」

 笑ってくれるのに。



「リト──!」


 ジゼが、泣いてる。






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