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あんぐり

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 茫然とリトは、巨大すぎる魔人を見あげる。

「……あ、あの……あの……魔人しゃま、僕の、お父さ、ご存知、でしあ?」

 巨大な頭が揺れる。
 瘴気が揺れる。
 こくりと魔人が頷いた。

「…………ぼ、僕……捨て、られ…………」

 あふれる涙を見つめた魔人は、首を傾げる。

『ソレ、見タコトアル。……カナシイ……?』

 巨大な鉤爪が、リトの涙に向かって伸ばされた瞬間


「リト──!」

 剣を掲げるアオとジゼが、降ってきた。



「瘴気のなかでもリトの匂いを追えるなんて、偏執狂みたいだがすごいぞアオ──!」

 びゃーびゃー落ちながら叫ぶジゼが、かっこいー!

「褒めてますか、けなしてますか」

 びゃーびゃー落ちながらふくれるアオも、かわいいよ!

「やきもちだ──!」

 リトを護るように剣を掲げてくれるふたりに、リトは息をのむ。


「……アオ……ジゼしゃま……!」

「どうやって帰るかさえ解らんが、たすけに来た!」

 無謀をさらけだすようにジゼが笑ってくれる。

「…………っ!」

 主人公じゃ、ないのに。
 モブでさえ、ないのに。


 あなたが笑ってくれたら、しあわせではちきれる。


 あなたにとっての、たったひとりじゃなくていい

 あなたが他の誰かとしあわせになっても


 どんなに胸が砕けても



 あなたのお傍に、いたいです







『何カ来タ』

 首を傾げる魔人に、アオとジゼが剣を構える。

「リトを返してもらう!」

 飛びかかろうとするジゼとアオを、リトはあわあわ止めた。

「待て、くだしあ! あ、あの、あの、魔人しゃま、僕の、お父さ、知てる、みたいでし。お話、聞かせ、ほしぃ、でし!」

 ぽかんとふたりが口を開ける。


「……リトは魔人と話ができるのか……?」

「アオも、わかゆ?」

「……いや、キシャ──! としか解らない」

 首を振るアオに、リトのしっぽが、ぽふりと揺れる。

 あれ? 獣人は皆わかるんじゃ?


「それにリト、ここは酷い瘴気だと思うが体調は? ふつうに話せているみたいだが……」

 心配そうに覗きこんでくれるジゼとアオに、リトはふたりを見あげる。


「ジゼしゃまと、アオも、へーき?」

「アリアスが特大の加護をくれたんだ」

「なるほろ」

 さすが主人公!
 魔界の底の濃密瘴気まで平気な加護を授けられるみたいだよ!


「いや、リトの加護は弱いものだったんじゃ……?」

 心配そうなアオとジゼに、リトは首を傾げる。

「僕、へーきでし。最初、瘴気吸たとき、びくり、しましあ。でも今、へーき」

 不思議そうにリトの耳もしっぽも、ぽふぽふ揺れた。

『半分、俺ノ血』

「…………え…………?」

 きょとんとするリトに、魔人が告げる。


『俺、母チャン。オ前、攫ワレタ。ヤット、見ツケタ!』


「えぇえぁぇえぇえええ!?」

 びっくりするリトを抱っこするように巨大な鉤爪が伸びてきて


「リト──!」

 真っ青な顔をしたジゼとアオが剣を掲げてくれるのを、あわあわ止める。


「あ、あのあの……魔人しゃま……僕の、お母さ、みたぃ、でしあ……」

 ほ、ほほ、ほんとに……?

 頭がぱんくしてるリトと一緒に、アオとジゼが


「………………………………は…………………………?」


 あんぐりしてる。





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