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おやつ?
しおりを挟む真っ暗闇の底で、リトは目を明けた。
いつの間にか気を失ってしまったらしい。
目を明けているのか閉じているのか解らぬほど、触れられるほど濃密な瘴気に包まれているのに、息ができる。
死んでない。
瞬いたリトのしっぽが、ぽふりと揺れた。
動ける。
掴まれてない。
そうっとリトは身体を起こす。
溢れ満ちる真っ暗な瘴気に透けるように、天に紅い月が懸かっている。
不思議な形をした真っ暗な樹々が瘴気をまとうように枝を伸ばした。
ちがう世界で、皆、生きてる。
ドォオオオォン──!
地震とともに、轟音がリトのほわほわの耳を震わせる。
『見ツケタ! 見ツケタ!』
巨大な魔人が、踊っていた。
ドォオオン──!
ガァアァン──!
大きな足が振り下ろされるたび、ちいさなリトは大地とともに跳びあがった。
ぱらぱら真っ暗な石が降ってくる。
真っ暗な土ぼこりをあげ、瘴気をかき混ぜながら、巨大な魔人が踊ってる。
『見ツケタ──!』
ど、どどどうしよう。
もしかして獣人は、魔人の大すきなおやつなんだろうか。
……踊ってしまうほど、おいしい……?
そ、それはそれで誇らしい気もするけど、かなりなぴんちだと思われます──!
あわあわしたリトは勇気を振り絞る。
ぷるぷる震えるしっぽと一緒に、声をあげた。
「あ、あのあの、魔人しゃま、あの、人間、おいしー、お菓子、作れましあ! 僕より、おいしーでし!」
たぶん! きっと! 絶対!
だから交渉してみたよ!
『……オカシ……?』
おお、通じた!
魔人にも通じる言葉が話せる獣人、すごい!
「あまーい、はちみつ、たぷり、お菓子、でし! 人間、すごぃのでし! 滅ぼす、だめでし! お菓子、なくなりましあ!」
お菓子は世界を救うのです──!
ちっちゃな拳を握り、ぷるぷるなしっぽをぽふぽふにして説得するリトに、魔人は巨大な血の瞳を瞬いた。
『俺モ、喰エル……?』
魔人が太い首を傾げるだけで、瘴気の風が巻き起こる。
吹き飛ばされそうなリトは、ちっちゃな足で踏ん張った。
耳もしっぽも、びゃーびゃーしてる。
これくらい平気なのでし!
「勿論でし! 歯磨き、も、お教え、しましあ!」
『ハミガキ……?』
「虫歯、なぃないでし!」
『……ムシバ……?』
「お菓子食べゆ、歯磨き、しなぃ、歯、痛い痛ぃでし!」
『オオ……!』
魔人さんが、もだもだしてる。
大地も世界も揺れている。
リトもしっぽもぐらぐらしたけれど、ちっちゃな足で踏ん張った。
「あのあの、お菓子、たぷり、お届け、しましあ。人間、世界、滅ぼす、止めて、くれましあ……?」
魔人が太い首を傾げる。
『滅ボス?』
「魔界の、瘴気、どばどばでし。生き物、皆、魔物、なちゃう! 死にそ、でし!」
縦長の血の瞳孔が、不思議そうに閃いた。
『……ソナノカ』
「そなのでし! 魔界の、皆しゃま、ふつー、こち世界、猛毒でし!」
首を捻る魔人と一緒に、掻き混ぜられた瘴気がぐるんと揺れた。
『アー、聞イタコトアル』
「ご存知でしあ?」
タブン、と魔人が巨大な口を開く。
『オ前ノ父チャン、何トカデキル』
「………………………………え………………………………?」
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