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どうか

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「リト──……!」

 ジゼは、心が裂ける音を聞いていた。

 リトは幾度、ジゼの心を粉々に撃ち砕いたら気が済むのだろう。
 出逢ったときも、闇龍山で大地に呑まれたときも、魔界へと落ちてゆく今も。

 自分が死ぬときも、心はこれほど悲鳴をあげぬだろう。

 リトが死ぬなら自分も死ぬなどという無様なことは言いたくない。


 リトをたすけ、ともに生きる。



 リトを掴んだ魔人を追って魔界の穴へと落ちようとしたジゼを、ルァルの手が止めた。

「じいちゃんと俺、ドディアの魔法使い総出で、境界を閉じる。魔界に落ちたら、二度とこちらには戻って来られなくなる。……リトのことは、残念だが──」

 苦渋を吐き出すように告げたルァルに、ジゼは膝を折る。

「あなたに今までお仕えできたことを誇りに思います。ジゼ・ディオ・ジェディスは只今より殿下の側近を辞します。以降殿下の命には従えません」

「ジゼ──!」

 悲鳴をあげるルァルに微笑んだ。

「セバとジェディス邸の皆と父上に、どうか健やかにとお伝えください」

「ゲォルグは──!」

「きっとゆるしてくださいます。私は誰よりも気質を受け継ぐ、父上の息子ですから」

「──っ」

「誰か剣をくれないか」

 砕け散った剣を捨てるジゼに駆け寄ったのは、アリアスだ。

「うまくできたか解りませんが、光の加護をつけました。……僕のせいで、またリトを危険な目に──」

 光をまとうように輝く剣を受け取ったジゼは、首を振る。

「……俺が、弱かった」

 隣のアオが、首を振る。

「……俺が弱かったんです。リトを護るために衛士になったのに──!」

 打ちひしがれるアオにも、アリアスは剣を差しだした。

「アオさんも、ゆかれるのでしょう?」

「……ともに行って、構いませんか」

 ちいさな声に、アオの肩を叩く。

「だめだと言っても、来るだろう?」

 真っ青なままだったが、アオはほんのり唇の端をあげた。

「……僕の知るBLゲームとは全然違う展開です。どうしたらいいのか、僕にも全く解らない。でもきっと、だいじょうぶです。
 ほんとうの主人公は、リトだから」

 桜の瞳を細めて、アリアスが微笑む。

「……アリアスはたまに不思議なことを言って、リトと解りあっているようだが……」

 首を傾げるジゼとアオに、ちいさく笑ったアリアスが光魔法を使ってくれる。

「光の加護を。どうかご無事で。絶対にリトを連れて帰ってきてください」

「ああ」

 ジゼが笑う。
 青い顔のまま、アオも微笑んだ。

 長々と吐息したルァルは、ジゼの肩に拳を入れる。

「一部だけ境界を薄くしておく。リトを連れて、必ず戻れ。戻ったら境界を開く。先の命は取り消しだ。だから戻ったら──また俺と闘ってくれ」

 頭をさげるルァルに、ノァとカィトが目を剥いて、ジゼは笑った。

「間違いは誰にもあります。人間らしいルァル殿下も、すきですよ」

「──っ!」

 耳まで真っ赤になったルァルが、ばたばたしてる。

「境界を閉じますぞ──!」

 術式を豪速で構築したらしいじじさまが、杖を掲げた。


「いってまいります」

 一瞬も迷わなかった。

 瘴気の渦へと、落ちてゆく。




 リト

 きみのためなら、どんなことだってできる気がするんだ

 どんなに無茶でも、無謀でも、無策でも

 それでも、きみをたすけたい




 きみが隣で笑ってくれた日々は、夢のようにしあわせだった



 どうか、もう一度


 笑ってください






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