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ほんとはジゼだけ
しおりを挟む光魔法で瘴気を浄化してくれたアリアスに、歓声と崇拝が降りそそぐ。
「……あぁ、これは……自分の力を勘違いして増長しちゃう、あれだね」
アリアスの桜の眉が苦し気にひそめられるのに、リトは首を振った。
「アリアスしゃま、なら、だぃじょぶ、でし。すごかた、でし! ありあと、ござまし!」
ふわふわのしっぽと一緒に頭をさげたら、アリアスが抱っこしてくれた。
「はぁああ! 癒される! ぬくぬく! ほあほあ! さすがリト!」
「ぐ──!」
悔しそうな顔をしたジゼが、アリアスとリトを引き離すのをこらえてる。
そ、そうだ、ジゼの恋路を応援しなくては!
あわあわ距離をとろうとするリトを抱っこする手に力を籠めたアリアスが、リトのふあふあの耳に顔をうずめて、ふんふん吸ってる。
「はぁあああ! なんか、光の魔力がみなぎる気がする──!」
めちゃくちゃ気のせいだよ、主人公!
す、吸われるのは、ちょっと恥ずかしいのでし……!
じ、ジゼしゃまなら、いい、けど……!
ジゼが吸ってくれるのを想像するだけで、燃える頬でもだもだしちゃう……!
「アリアスのやる気を充填するためにも、こらえてくれ、ジゼ。アオも、リトも」
ちょっとうらやましそうなルァルの言葉に、ギリギリしていたジゼとアオが吐息した。
「……御意」
はずかしくてたまらないリトも、頷くしかない。
主人公が法律だよ!
「しかしこれは酷いな。アリアスがいなければ、息もできない。ゾンデを覆う瘴気はこれほどに濃いのか」
眉をひそめるルァルにナティは首を振る。
「こ、れほど濃い瘴気を吸ったのは、初めてだ。……転移門は? ……ここは、どこ、だ……?」
茫然と辺りを見回すナティに、皆の顔から血の気が引いてゆく。
「じいちゃん!」
「いやあ、わしも気張りましたが、瘴気のほうが強かったようですのう。引き寄せられて転移の軌道が歪んだようですじゃ。転移門じゃないところに落とされましたの」
もこもこの眉をさげるおじいちゃん魔導士に、皆の顔からさらに色が消えた。
おじいちゃんにどうしようもないものは、誰にもどうしようもない。
さくっと諦めたらしいルァルは、淀んだ大気と真っ暗な世界に眉をしかめる。
「ゾンデ王国のどのあたりなのか解るか、ナティ」
「……これは……魔界との、境界……? ここまで酷い瘴気が溢れているということは──!」
駆けてゆくナティを追うようにルァルが叫ぶ。
「防御魔法が使える者は皆を護るように展開せよ! 騎士団は隊列を組め! アリアスはできる範囲でいい、瘴気を浄化してくれ!」
「御意!」
魔法使いたちが杖を掲げる。
あふれる魔力が皆を護るように覆ってくれる。
アリアスの桜の髪が舞いあがる。
「行くぞ!」
駆けた先には、倒れ伏した数多の魔法使いと、大きく裂けた境界の向こうに見える、真っ暗な世界が広がっていた。
真っ青なナティが、振り返る。
「……魔界と、繋がってる」
「境界を閉じるのじゃ──! 結界魔法、放て──!」
おじいちゃん魔導士が掲げる杖に応え、結界魔法が展開された瞬間、裂け目から巨大な鉤爪が現れた。
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