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「そうだ、こんなのが視界にいると落ち着くわけがない、さっさと要件に移ろう」

 いつも分け隔てなくやさしいルァルが、ナティにはひどい!

「え、ちょ、ひどくない!?」

 涙目なナティを一瞥したルァルは唇を開いた。

「魔物を鎮めるため光魔法を使える者を貸してほしいという嘆願か」

 眉をあげるルァルが、あっさりスルーだ!
 しょんぼり肩を落としたナティは頷いた。

「うちのゾンデ王国のこと、皆、知ってるかな? 魔界との境界があるって言われてて、たまーに、魔界から来た魔物とかが出る国なんだよ。魔物討伐のための騎士団もあって、いつでも国中に出動できるよう待機してる。危険な国って言われて差別されてさ、でもドディア帝国だけはいつも援助してくれるし、差別しないし、やさしかったのに、なんでこんな冷たい対応なんだよ!」

 緑の瞳がうるうるになってるナティに、ルァルは吐息する。

「自らの言動をかえりみろ」

「え、めちゃくちゃ親愛にあふれてるよ!」

 たしかに。
 皆でうむうむ頷いてしまった。

「親愛にあふれる者が、隠匿魔法で帝宮に侵入し襲撃するか──!」

 叫ぶルァルに、皆で思いっきり頷いた。

「ぐ──! そ、それはほんとうに申し訳なく思います。間違ってました、ごめんなさい! で、でもほんとに切羽詰まってて! 光魔法使える子が出たって聞いたから、あわてて飛んできたんだよ!」

 涙目なナティの申し開きに、ルァルは眉を寄せる。

「何があった」

 ナティは緑の目を伏せた。
 長いまつげが影を落とす。

「境界があるって言われてるところに魔界がこちらの世界に干渉しないように結界が張ってあるんだけど、それをゾンデ王国の魔法使いたちが支えてるんだ。でも膨大な魔力が必要で……支えきれなくなってきた」

 ふるりとリトのしっぽがふるえた。
 リトのお茶で唇を湿らせたナティは続ける。

「結界が薄くなって、それでも魔物が入ってこないように頑張ってたんだ。魔界からの魔物の侵入は確認されていない。なのに、ゾンデ王国に魔物が出るようになった」

 リトは思わずアリアスを振り返る。
 桜の眉をさげたアリアスは、唇を開いた。

「原因の究明は?」

「学究の宮の学者たちは、おそらく薄くなった結界から魔界の瘴気が漏れているのではないかと推測している。その瘴気が、こちらの動植物を魔物に変えてしまっているのだと」

「そんな──!」

 悲鳴をあげるノァの隣で、カィトも眉をしかめる。

「瘴気があふれだすと、こちらの世界が魔界になってしまうということか?」

「その瘴気を浄化できる、光魔法の使い手を求めておられるのですね」

 アリアスの言葉に、ナティは頷く。

「一刻も早く何とかしようと卑劣な手段に。申し訳なかった」

 深く頭をさげるナティに、ルァルは吐息した。

「事情は理解した。だがやってはならぬことでもある。正式にゾンデ王国に抗議する」

「そんな──!」

「帝宮に隠匿魔法で押し入り、襲撃したことに対してな」

 ルァルが唇の端をあげる。

「丁度よいところに来たぞ、ナティ。光魔法の使い手だ」





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