上 下
149 / 182

ついでじゃないよ!

しおりを挟む



 アオのかっこよさに、皆の目がきらきらしてる──!

 やた!

 ひとりでちょこんと跳ねたリトの耳としっぽがほわほわ揺れて、真っ赤になった皆が胸を押さえてる。

「く──!」

 皆が大流行の癖をしてる間も、アオのしっぽはしゃんとしてる。

『アオ、すごぃ!』

 獣人にだけ聞こえるようにささやいたら、アオの耳がぴくりとリトのほうを向いて、頬だけがほんのり赤くなった。

「……馬車寄せが騒がしかったのは、これか」

 ぽかんとアオの耳としっぽを凝視するノァに、ジゼが頷いた。

「獣人孤児院に引き取られていたアオを、私の専属衛士として雇用しました。王宮に入る認可をいただきたい」

 膝を折るジゼに、ルァルが手をあげる。

「許す」

 一瞬の迷いもない言葉に、カィトのほうが目を剥いた。

「よ、よろしいのですか、ルァルさま! 獣人は非常に身体能力が高く、叛意がある場合、大変に危険かと──」

 ルァルは首を振る。

「殺す気なら、俺は既に死んでいる」

 沈黙が落ちた。

「俺はまだ生きている。害意はないということだ」

 告げるルァルに頷いたジゼはアオに向き直る。

「アオ、こちらが私がお仕えする次期皇帝ルァル・シ・ドディア殿下だ。ご挨拶を」

 ジゼに促されたアオが手を胸に膝をつく。

「お目に掛かれますこと、獣人みなの栄誉にございます。ジゼさまの専属衛士、アオにございます」

 なめらかな口上にも、所作にも、一切のよどみがない。
 さばかれた裾まであざやかにひるがえり、アオの群青のしっぽを彩った。

「……これは……」

 ちょっと赤くなったノァが口元をてのひらで覆う。
 こほんと咳払いするカィトに、ノァがばたばたしてる。

「なにこのかっこかわいー生き物は!」

 アリアスに叫ばれたアオが、やわらかに目を細める。

「お褒めのお言葉、ありがたく」

「きゃ──!」

 朱い頬を両手で覆ってもだもだするアリアスとノァと、なんとも言えない顔になるカィトに、ルァルが笑う。


「おそらく皆の反応も似たようなものだろう。よき者を衛士にしたな、ジゼ」

 眉をあげたジゼは、軽く手を挙げてアオを立たせる。

「リトの護衛です。俺のことはついでに護ってくれると」

「いえ! ジゼさまも勿論、誠心誠意お守りいたします!」

 拳を胸に宣誓するアオに、ジゼの唇がほころんだ。


「ありがとう」

 真っ赤になったアオのしっぽが、ぶんぶんしそうになりそうなのを、ぴくりで止めてる。


「アオ、すごぃ──!」

 思わず声に出してぱちぱち拍手するリトに、皆が笑った。

「折角の茶会だ、リト、茶を淹れてくれ」

「あい!」

 ルァルの言葉にうやうやしく腰を折ったリトを、アオの手が止める。
 ジゼを見つめるアオに、軽く頷いたジゼが顔をあげる。

「ルァルさま、アオが申しあげたいことがあると」

「申せ」

 軽く手を挙げたルァルに膝を折ったアオは、形のよい唇を開いた。


「不躾とは存じますが、伺います。殿下の周りの他国の者は、わざと放置しておられるのでしょうか」

 なごやかだった場が、凍った。
 レォンの羽が、ぱたりと揺れる。


「──ほう」

 ルァルの声が低くなる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活

福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…? しかも家ごと敷地までも…… まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか…… ……? …この世界って男同士で結婚しても良いの…? 緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。 人口、男7割女3割。 特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。 1万字前後の短編予定。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

【完結】伝説の勇者のお嫁さん!気だるげ勇者が選んだのはまさかの俺

福の島
BL
10年に1度勇者召喚を行う事で栄えてきた大国テルパー。 そんなテルパーの魔道騎士、リヴィアは今過去最大級の受難にあっていた。 異世界から来た勇者である速水瞬が夜会のパートナーにリヴィアを指名したのだ。 偉大な勇者である速水の言葉を無下にもできないと、了承したリヴィアだったが… 溺愛無気力系イケメン転移者✖️懐に入ったものに甘い騎士団長

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...