【完結】もふもふ獣人転生

  *  

文字の大きさ
上 下
147 / 207

よく見えるよ

しおりを挟む



 隣の衛士長ダタが、やわらかに目を細めた。

「アオ、警護」

「は!」

「不審者は?」

「前方32度508メレ地点で果物店で盗みを働こうとしている者がいますが、捕縛しますか」

「いやいやいや、見えすぎだろ──!」

 思わず叫んだらしいダタが、こほんと咳払いしてる。
 ぜんぶ聞こえるリトは、こっそり笑った。


「若を襲おうとしている不審者だけを警戒──」

「するのはジェディス家の誇りが許さないのでしょう?」

 ダタの言葉を遮るように微笑んだアオが、白馬カガの首に手を当てる。

「前方28度487メレ、行くぞ、カガ」

『行ってやらあ!』

 鼻息荒く駆けだすカガのことを解っていたように、護衛の衛士たちが5人で最も警護しやすい陣形へとなめらかに変わる。

「えぇ──!?」
「獣人が馬車を離れたぞ!?」
「どこ行くんだ!?」

 仰け反る民たちを蹴飛ばさないように、けれど全力で駆けるカガの背のうえにひらりと立ちあがったアオが、カガの背を蹴る。

「な、なななな!?」
「飛んだ──!」

 茫然とする民の頭上を飛び越えたアオは、店の後ろから果物をこっそり強奪しようとしていた輩の頭に着地した。

「ぐぎゃあぁアア──!」

 民の皆さんと一緒にあんぐりしたリトは、泥棒の首の骨が折れていないことを祈った。

「え、えぇえええ!?」

 お店の人も仰け反ってる。

「窃盗犯です。帝都の衛士を呼んでください」

 告げたアオが獣人であることに目を剥いた店主は、目の前で泡を吹いて伸びている泥棒と、その手のなかにある売り物の果物を見つめ、ようやく事態を理解したように頭を下げた。

「あ、ああ、ありがとう……!」

 感謝より驚きが勝るような店主の目が、まんまるだ。

「当然のことをしたまでです」

 微笑んだアオに、かぽかぽ蹄鉄を鳴らして近づいてきたのは白馬カガだ。

『おー、終わったかー。背中はもちょっとやさしく蹴ろよな。獣人の脚力、えぐいんだよ!』

 鼻息荒いカガの首をやさしく叩いたアオが笑う。

「わるかった、気をつける」

 ひらりとカガに跨ったアオが、馬と会話しているアオに仰け反っている店主に微笑んだ。

「お早く衛士をお呼びくださいね。では失礼します」

 駆けだしたカガに、民がさっと道を空けてくれる。
 アオとカガはすぐにジゼの馬車の護衛に復帰した。

 ヒュ──!

 口笛を吹く衛士長ダタに、アオの眦がほんのり赤くなる。
 ぱたりと揺れそうなしっぽは、しゃんとしたままだ。

「ダタ、ジゼさまの馬車の警護で口笛はちょっと」

 車窓からセバに突っ込まれたダタが、馬車を振り向いて笑った。

「若の評判が、また上がりやすぜ!」

「ちょ! 外なんですから、丁寧に! 勉強しはじめたばかりのアオのほうが礼儀正しいとかおかしいだろう!」

 セバの銀縁眼鏡が傾いてる。






 帝宮の衛士の掲げる槍が鳴る。

「次期筆頭侯爵ジゼ・ディオ・ジェディスさま、ご来臨!」

 衛士長ダタとアオが先導する馬車がなめらかに帝宮の正面に止まる。

 颯爽と白馬から降りるアオの白い衣が初夏の風に舞う。


「獣人!?」
「まさか、獣人が衛士に……!?」

 馬車寄せにいた貴族と従僕たちがざわめいた。




しおりを挟む
感想 255

あなたにおすすめの小説

【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は? 最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか? 人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。 よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。 ハッピーエンド確定 ※は性的描写あり 【完結】2021/10/31 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ 2021/10/03  エブリスタ、BLカテゴリー 1位

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...