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よく見えるよ

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 隣の衛士長ダタが、やわらかに目を細めた。

「アオ、警護」

「は!」

「不審者は?」

「前方32度508メレ地点で果物店で盗みを働こうとしている者がいますが、捕縛しますか」

「いやいやいや、見えすぎだろ──!」

 思わず叫んだらしいダタが、こほんと咳払いしてる。
 ぜんぶ聞こえるリトは、こっそり笑った。


「若を襲おうとしている不審者だけを警戒──」

「するのはジェディス家の誇りが許さないのでしょう?」

 ダタの言葉を遮るように微笑んだアオが、白馬カガの首に手を当てる。

「前方28度487メレ、行くぞ、カガ」

『行ってやらあ!』

 鼻息荒く駆けだすカガのことを解っていたように、護衛の衛士たちが5人で最も警護しやすい陣形へとなめらかに変わる。

「えぇ──!?」
「獣人が馬車を離れたぞ!?」
「どこ行くんだ!?」

 仰け反る民たちを蹴飛ばさないように、けれど全力で駆けるカガの背のうえにひらりと立ちあがったアオが、カガの背を蹴る。

「な、なななな!?」
「飛んだ──!」

 茫然とする民の頭上を飛び越えたアオは、店の後ろから果物をこっそり強奪しようとしていた輩の頭に着地した。

「ぐぎゃあぁアア──!」

 民の皆さんと一緒にあんぐりしたリトは、泥棒の首の骨が折れていないことを祈った。

「え、えぇえええ!?」

 お店の人も仰け反ってる。

「窃盗犯です。帝都の衛士を呼んでください」

 告げたアオが獣人であることに目を剥いた店主は、目の前で泡を吹いて伸びている泥棒と、その手のなかにある売り物の果物を見つめ、ようやく事態を理解したように頭を下げた。

「あ、ああ、ありがとう……!」

 感謝より驚きが勝るような店主の目が、まんまるだ。

「当然のことをしたまでです」

 微笑んだアオに、かぽかぽ蹄鉄を鳴らして近づいてきたのは白馬カガだ。

『おー、終わったかー。背中はもちょっとやさしく蹴ろよな。獣人の脚力、えぐいんだよ!』

 鼻息荒いカガの首をやさしく叩いたアオが笑う。

「わるかった、気をつける」

 ひらりとカガに跨ったアオが、馬と会話しているアオに仰け反っている店主に微笑んだ。

「お早く衛士をお呼びくださいね。では失礼します」

 駆けだしたカガに、民がさっと道を空けてくれる。
 アオとカガはすぐにジゼの馬車の護衛に復帰した。

 ヒュ──!

 口笛を吹く衛士長ダタに、アオの眦がほんのり赤くなる。
 ぱたりと揺れそうなしっぽは、しゃんとしたままだ。

「ダタ、ジゼさまの馬車の警護で口笛はちょっと」

 車窓からセバに突っ込まれたダタが、馬車を振り向いて笑った。

「若の評判が、また上がりやすぜ!」

「ちょ! 外なんですから、丁寧に! 勉強しはじめたばかりのアオのほうが礼儀正しいとかおかしいだろう!」

 セバの銀縁眼鏡が傾いてる。






 帝宮の衛士の掲げる槍が鳴る。

「次期筆頭侯爵ジゼ・ディオ・ジェディスさま、ご来臨!」

 衛士長ダタとアオが先導する馬車がなめらかに帝宮の正面に止まる。

 颯爽と白馬から降りるアオの白い衣が初夏の風に舞う。


「獣人!?」
「まさか、獣人が衛士に……!?」

 馬車寄せにいた貴族と従僕たちがざわめいた。




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