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がんばりました
しおりを挟む「まあでも、アオにぶつくさ言う輩はぜんぶ悋気だと思えばいい。めちゃくちゃかっこいーぞ、アオ!」
アオの背をばしんと叩くダタが笑って、赤い頬で照れくさそうにアオが笑う。
ぴくりと動きそうになったアオの耳としっぽは、しゃんとしたままだ。
「アオ、すごぃ!」
ぱちぱち拍手して、尊敬の目で見あげるリトに、真っ赤になったアオのしっぽが、ふるふるしてる。
「……俺もサザに乗ろうかな……」
ぶっすりふくれるジゼが、尊い──!
「対抗なさりたいんですね、ジゼさま」
セバが肩を揺らして笑ってる。
「いやいやいや、警護しにくくなるので、若は是非馬車で」
によによしてるダタに、さらにふくれるジゼの頬が、世界の至宝だ──!
ましろな衣に身を包んだアオが、白馬カガに跨り、衛士長も愛馬の白馬に跨る。
馬車の前に衛士長とアオが、後ろに衛士ふたり、馬車の両脇にひとりずつ、計6人で護衛してくれる。
衛士の衣も馬も馬車も真っ白で、家紋のきらめく馬車は、ジェディス家のものだと帝都の民ならすぐ解るらしい。
馬車に掲げる家紋で、当主のゲォルグが乗っているのか、次期侯爵のジゼが乗っているのかまで解るようになっている。
「わあ──! ジゼさまだ!」
「帝宮へゆかれるのかな?」
「いってらっしゃいませ、ジゼさま!」
手を振ってくれる民がすごい。
あんぐりしそうなリトの隣に座ったジゼが、蒼の瞳をやさしく細めて、手を振る民に応えて手を挙げてる。
「はぅあ──! ジゼしゃま、尊い──!」
拝むリトに、ジゼがほんのり赤くなってる。
「おい、一番前の──!」
「獣人!?」
「ジェディス家の馬車の護衛が、獣人──!?」
歓声が、どよめきに変わる。
心配で、そっと馬車の車窓から顔を出したリトのほわほわの耳が、皆のざわめきを拾った。
勇ましい白馬カガに跨ったアオが見える。
とてもよく聞こえるだろう耳も、ほわほわのしっぽも、しゃんとしてた。
まっすぐ前を見つめ、微塵も揺るがない。
衛士長の馬と歩調を合わせ、御者ソゾが操る2頭の白馬の進行を阻まないよう、きちんと距離を保って騎乗している。
ほんのこの間、アオは初めて馬に乗ったはずだ。
どれだけ練習したのだろう、堂々とまっすぐな背で馬に乗るアオの耳としっぽが風に揺れる。
白い衣がひるがえり、ざわめきは感嘆に変わってゆく。
「……かっこいー」
「なんだあれ!」
「獣人って、こんなに凛々しいのか!?」
驚愕が、歓声に変わってゆく。
ぴくりとふるえそうになったアオは、耳としっぽをしゃんとしたまま、まっすぐな背で馬を進める。
その後ろ姿を見つめたリトの視界が、滲んだ。
「……アオ、めちゃくちゃ、めちゃくちゃ、がんば、ましあ」
ちいさな囁きさえ、アオのとてもよい耳は拾うのだろう、リトのほうにくるりと向いた耳は、すぐまたしゃんと前を向いた。
ほんのり赤くなったアオが、獣人にしか聞こえない囁きで告げる。
『リトと一緒だったから、がんばれた』
こぼれた涙といっしょに、リトはちっちゃな拳を掲げる。
「アオ、獣人の、希望でし!」
群青の瞳が見開かれて、ふうわり笑った。
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