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いのり
しおりを挟むぽふぽふしっぽを揺らしたリトは魔道具コンロでお湯を沸かし、心身の疲れをとり安眠にいざなうお茶と香りづけの花を選ぶ。
きっとカフェインフリーだろう、ハーブティーみたいな感じだよ。
「どれ、しゅき?」
お茶と花を広げたリトに、アオが微笑む。
「リト」
瞬いたリトの耳としっぽが、ぺしゃんとしょげる。
「……ごめなしぁ」
酷いことを、しているのかもしれない。
思うだけで、胸が潰れる。
俯くリトの頭をそっと撫でたアオは、首を振った。
「……俺こそ、ごめん」
ちいさな声が、夜に溶ける。
リトが広げたお茶と花の香を嗅いだアオは、やわらかな香りのお茶を選んだ。
「これ」
「あい。待ててね」
お茶を受け取ったリトは、あたためたポットに丁寧にお茶の葉を入れて、ほんの少しのお湯を入れてふやかすように蒸らした。
セバが教えてくれたように、正確に。
手順を間違えないように、丁寧に。
アオがよく眠れますように。
アオが元気になりますように。
祈りながらお茶を淹れる。
「どぞ」
音をたてずに茶器を置いたリトに、アオは目を剥いた。
「すごいな、リト!」
きらきらする群青の瞳で、笑ってくれる。
「へ?」
「なんか、すごい。セバみたいだった!」
ぱちぱち瞬いたリトが、とろけて笑う。
「しゃいこー、褒め、言葉、でし!」
ほんのり赤くなったアオが、お茶に口をつける。
香りを楽しみ、唇に含んだアオの群青の瞳が、見開かれた。
「……身体のなかに、風が吹いた気がする」
「疲れ、とゆ、元気、でゆ、よく眠れゆ、お茶でし」
微笑むリトをまぶしそうに見つめたアオは、大切そうに器をかかえ、愛おしむようにお茶を飲んでくれた。
「ありがと、リト。元気でた」
群青の瞳をほそめて、アオが笑う。
「リトが頑張ってるんだから、俺もがんばる」
もりあがる上腕二頭筋が立派だ!
リトももりあげてみた!
みょん
ちょこっと、盛りあがったよ!
アオがとてもおかしそうに、声をたてて笑った。
「アオ、がんばゆ、僕、がんばゆ!」
ぽふぽふ揺れるおそろいのしっぽで、ふたりで笑う。
「おやすみ、リト。……言えるなんて、めちゃくちゃしあわせ」
赤い頬で、笑ってくれる。
「……生きて、くれた……よかた……!」
涙を滲ませるリトを抱きしめようとしたのだろう、伸ばされたアオの腕が、止まる。
「また明日」
月明かりに透ける群青の瞳で、笑ってくれた。
「また、あした」
手を振って、互いの部屋に帰る。
寝台に腰かけたリトは、すこし泣いた。
うれしいのか、くるしいのか、さみしいのか、わからない。
アオが生きていてくれて、うれしい。
大人になってしまったアオが、さみしい。
アオの気持ちに応えられないことが、くるしい。
ぐちゃぐちゃになって、涙が滲む。
「……ふぇ」
ぺしょぺしょになった耳としっぽで枕を抱えたら
コンコン
ちいさなノックの音がした。
夜中なのに?
びっくりしたリトが、そうっと扉を開ける。
涼やかなのに、とろけそうにあまい香りに、あたたかな腕に、つつまれる。
「……リトが、泣いてる、気が、して……」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくれるジゼの背を、そっと、そっと、抱きしめた。
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