141 / 169
お茶です
しおりを挟む真っ赤な頬でぶんぶん首を振るアオの群青の髪がさらさら揺れて、衛士長のでっかい手がわしゃわしゃ掻き混ぜた。
「……っ!」
あわあわしてるアオが、かわいい。
によによするリトと皆の前で、衛士長が胸を張る。
「若、アオは大変優秀です。3日後の帝宮のお茶会に衛士として連れてゆけるよう、完璧に仕上げてみせましょう」
胸を叩く衛士長に、ジゼの蒼の瞳が細くなる。
「ダタの優秀さも理解しているが、父上のご下命は『獣人の素晴らしさの喧伝』だ。3日で足るか?」
衛士長ダタがにやりと唇の端をあげる。
「勿論です、若。これでもジェディス家衛士長を任されていやすから」
ふふんと胸を張るダタに、リトは思わず拍手した。
「ダタ、かこいー!」
ぱちぱち拍手と一緒に、ぽふぽふしっぽを振って讃えるリトに、真っ赤になったダタが胸を押さえてる。
ジェディス邸にある寮のリトの部屋の隣に、アオの部屋はしつらえられた。
夜半になるまで勉強していたのだろう、帰ってきたアオの音がして、リトはそっと自室の扉を開ける。
疲れ果てているのだろうアオの、ぺしゃんとした耳としっぽに、リトはあわてて引きずる足で駆け寄った。
「アオ、だぃじょぶ?」
「へいき。慣れてないから、ちょっと」
笑ったアオは、長めの群青の髪を掻きあげて吐息する。
「阿保みたいな礼節って思ってたけど、人間も大変なんだな」
笑うアオに、リトも笑った。
「疲れ、とれゆ、よく眠ゆ、お茶、淹れゆ?」
「いいのか?」
「うん!」
リトのちっちゃな手が、アオのおっきくなった手を引く。
お勉強のために、とセバが許してくれたので、リトの部屋にはお茶と香りづけの花や葉っぱがたくさんあって、暇があればリトはお茶を淹れている。
相手の気持ちを思い遣るために、自分の気持ちと体調を正確に把握して、なりたい方へ改善するお茶を淹れる練習を続けてる。
『従僕の一番大切な仕事は、いつだって主の傍で、やさしく微笑むことだ。『傍にいてくれたら大丈夫』安心してもらうことだ。そのために、すべての職務がある』
セバが教えてくれたとおり、セバが傍にいてくれると、皆安心してる。
ゲォルグも、ジゼも、リトも。
いつだって微笑んで、完璧に家令の仕事をこなしてくれる。
『セバがいてくれたら、だいじょうぶ』
皆が思ってくれるまで、セバはきっと必死で頑張ったんだ。
『リトがいてくれたら、安心する』
ジゼが思ってくれるように。
あんまり優秀じゃないかもしれないけど、結果はあまり出ないかもしれないけど、それでもあきらめないで、がんばってみたい。
ジゼが、笑ってくれるように。
願って淹れるお茶は、何にも思わないで杜撰に淹れるお茶よりずっと、おいしい気がする。
だからリトは、お茶を淹れるとき、かならず相手のことを思う。
笑ってくれますように
安心してくれますように
ちょこっとでも元気になってくれますように
そしたら所作もやわらかに、丁寧になって、銀縁眼鏡が輝いて
『合格』
セバが笑ってくれる。
つかれたアオも、笑ってくれたら、いいな。
650
お気に入りに追加
3,215
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話
かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた?
転生先には優しい母と優しい父。そして...
おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、
え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!?
優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!!
▼▼▼▼
『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』
ん?
仲良くなるはずが、それ以上な気が...。
...まあ兄様が嬉しそうだからいいか!
またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。
異世界に召喚されて失明したけど幸せです。
るて
BL
僕はシノ。
なんでか異世界に召喚されたみたいです!
でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう
あ、失明したらしいっす
うん。まー、別にいーや。
なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい!
あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘)
目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)
転移したら獣人たちに溺愛されました。
なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。
気がついたら僕は知らない場所にいた。
両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。
この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。
可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。
知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。
年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。
初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。
表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました。
おまけのお話を更新したりします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる