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お茶です

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 真っ赤な頬でぶんぶん首を振るアオの群青の髪がさらさら揺れて、衛士長のでっかい手がわしゃわしゃ掻き混ぜた。

「……っ!」

 あわあわしてるアオが、かわいい。

 によによするリトと皆の前で、衛士長が胸を張る。

「若、アオは大変優秀です。3日後の帝宮のお茶会に衛士として連れてゆけるよう、完璧に仕上げてみせましょう」

 胸を叩く衛士長に、ジゼの蒼の瞳が細くなる。

「ダタの優秀さも理解しているが、父上のご下命は『獣人の素晴らしさの喧伝』だ。3日で足るか?」

 衛士長ダタがにやりと唇の端をあげる。

「勿論です、若。これでもジェディス家衛士長を任されていやすから」

 ふふんと胸を張るダタに、リトは思わず拍手した。

「ダタ、かこいー!」

 ぱちぱち拍手と一緒に、ぽふぽふしっぽを振って讃えるリトに、真っ赤になったダタが胸を押さえてる。




 ジェディス邸にある寮のリトの部屋の隣に、アオの部屋はしつらえられた。
 夜半になるまで勉強していたのだろう、帰ってきたアオの音がして、リトはそっと自室の扉を開ける。
 疲れ果てているのだろうアオの、ぺしゃんとした耳としっぽに、リトはあわてて引きずる足で駆け寄った。

「アオ、だぃじょぶ?」

「へいき。慣れてないから、ちょっと」

 笑ったアオは、長めの群青の髪を掻きあげて吐息する。

「阿保みたいな礼節って思ってたけど、人間も大変なんだな」

 笑うアオに、リトも笑った。

「疲れ、とれゆ、よく眠ゆ、お茶、淹れゆ?」

「いいのか?」

「うん!」

 リトのちっちゃな手が、アオのおっきくなった手を引く。

 お勉強のために、とセバが許してくれたので、リトの部屋にはお茶と香りづけの花や葉っぱがたくさんあって、暇があればリトはお茶を淹れている。

 相手の気持ちを思い遣るために、自分の気持ちと体調を正確に把握して、なりたい方へ改善するお茶を淹れる練習を続けてる。

『従僕の一番大切な仕事は、いつだって主の傍で、やさしく微笑むことだ。『傍にいてくれたら大丈夫』安心してもらうことだ。そのために、すべての職務がある』

 セバが教えてくれたとおり、セバが傍にいてくれると、皆安心してる。
 ゲォルグも、ジゼも、リトも。
 いつだって微笑んで、完璧に家令の仕事をこなしてくれる。

『セバがいてくれたら、だいじょうぶ』

 皆が思ってくれるまで、セバはきっと必死で頑張ったんだ。


『リトがいてくれたら、安心する』

 ジゼが思ってくれるように。


 あんまり優秀じゃないかもしれないけど、結果はあまり出ないかもしれないけど、それでもあきらめないで、がんばってみたい。


 ジゼが、笑ってくれるように。


 願って淹れるお茶は、何にも思わないで杜撰に淹れるお茶よりずっと、おいしい気がする。

 だからリトは、お茶を淹れるとき、かならず相手のことを思う。


 笑ってくれますように

 安心してくれますように

 ちょこっとでも元気になってくれますように


 そしたら所作もやわらかに、丁寧になって、銀縁眼鏡が輝いて
『合格』
 セバが笑ってくれる。



 つかれたアオも、笑ってくれたら、いいな。




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