もふもふ獣人転生

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 ふるえるリトのちいさな肩を抱きしめたアオが、嗚咽を堪えるように、ぎゅっと唇を噛んだ。

「……言いたかったんだ。言わないで、あきらめるなんて、いやだから。……どうしても、言いたかった。……傷つけて、ごめん」

 押しだされる言葉が、ふるえてる。

「ごめなしぁ」

 こぼれる涙と抱きしめるリトのちっちゃな肩に、アオは顔を埋めた。

「……ずっと、きみを、想ってた」

 ちいさな声が、かすれて、消える。

「おっきくなったら、いちばん強い獣人になって、きみを護る。もう誰にも傷つけさせない。きっと、きみの、伴侶にって……必死で願っていたから……俺は生きられたんだと思う」

 涙の瞳で、アオが微笑む。


「ありがとう、リト」


 前と同じ、ちっちゃな手で、リトは、おっきくなった背中を抱きしめる。

「……僕、だぃじ、おも、て、くれ、て……あり、ぁと、アオ」

 鼻をすするリトに、アオは笑った。


「伴侶はあきらめるけど、リトを護ることは、あきらめないから」

 涙を払ったアオが、苦渋の顔で押し黙っていたジゼの顔を覗き込む。


「というわけで、リトの護衛として、雇って、人間」

 尖った牙を剥きだしたアオに、ジゼの瞳がまるくなる。

 青いしっぽが、ぱたりと揺れた。


「……へ!? だ、だだだだめでし! 僕、従僕! 護衛、なぃないでし!」

 わたわたするリトの手をぎゅっと握るアオに、ジゼのかんばせが、ものすごく、ものすごく複雑そうに歪む。
 隣のセバが微笑んで、ジゼは苦いものを吐き出すように呟いた。

「……たしかに、リトの護衛は必要かな、と思っていた。……獣人に偏見もなく、腕も立つ、だろう。リトに決して危害を加えず、身を挺して護ってくれそうだ、し……リトがいやなら、絶対、手を出さない、だろう、し……」

 ちらりとジゼがセバを見る。

「獣人を差別する衛士を解雇しましたので、空きはございます」

 流れるように答えるセバに、ジゼが吐息する。

「……わかった。契約の詳しい内容は、後ほどセバが」


 ぽかんとアオが口を開ける。

「……え、あ、あの、ほ、本気で? 俺を、雇ってくれる、の? 獣人だし、あの、リト命なんだけど──」

 期待にだろう、揺れる青いしっぽに、微かにジゼが笑う。


「命を懸けて、リトを護ってくれるだろう。俺だけでは、手に余ることもあるだろうから」

 ちらりと見られたレォンが首をかしげて、飛びあがったリトはぶんぶん首を振る。


「じ、ジゼしゃまも、アオも、だ、だめでし! 僕、従僕! しよぅ人!」

 銀縁眼鏡が輝いた。


「ではなくなる日も遠くないでしょうから。表向きはジゼさまの護衛として雇用します。よいですね?」

 茫然とセバを、ジゼを見つめたアオが、拳を胸に、膝をつく。


「……ありがとう」

 かすれた、ちいさな囁きに、ジゼが頷く。


「リトを護ってくれ」


 まっすぐな声だった。

 くしゃりとアオの顔が歪む。


「この身に代えて」

 ぽふりとしっぽを揺らしたアオが、膝をついたままジゼを見あげる。


「……なんかちょっと、惚れそうになった」


 乗り換えの早いアオ!

 ちがう、最愛の推しの魅力が、すごすぎる──!







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