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楽園です

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 皆の瞳に、涙が浮かぶ。

「……僕ら、たすけて、くれた」

「……ぁり、がとぅ……」

 ちいさな、ちいさな声だった。

 伸ばされたちいさな手を、リトの、テデの、ジゼの、セバの腕が、抱きしめる。

「あ、あのあの、僕……」

 わたわたするレォンに

「おにぃちゃんも!」

 ちっちゃな子が手を伸ばして、抱っこできたレォンの頬が輝いてる。



「ちゅまほ、おねがぃ、します!」

 差し出された腕の無残な痕に顔を歪めたテデは、胸を叩いた。

「魔力が切れそうになるまで頑張るよ!」

 テデの手のひらが輝くたび

「わぁ──!」
「痛くない!」
「すごぃ!」

「テデにーに、ありがとー」

 ほわほわ赤い頬で、ふわふわの耳で、もふもふのしっぽで、皆が笑う。

「……楽園だ……! ジゼさま、引っ越しましょう!」

 進言するテデの目が本気だ。



 ぱたぱた、レォンの翼が揺れる。

「はね!」
「すごぃ、はね!」

 もふもふしているちっちゃな獣人たちがレォンの傍に寄ってきて、ぱちぱち拍手してる。

「あ、あの、僕が、こわく、ない、のか……?」

 そうっと聞いたレォンに、顔を見合わせた子どもたちが頷いた。

「アオにーに、つぉい、やさしー」
「たまに、こわい」

 皆がこくこく頷いて、アオが笑う。
 ゆったり揺れる群青のしっぽに抱きついたちっちゃな子が、きゃらきゃら笑った。

「ものすーごく、つおい、のに攻撃しない」
「やさしー」
「やさしー!」

 皆のレォンを見つめる目が、きらきらしてる。

 レォンの異次元の強さが解るからこそ、攻撃しないで、皆をあたたかく見守ってくれているレォンのやさしさが、人間よりずっと解るのかもしれない。

「レォンしゃま、とってもつぉい、とってもやさしー!」

 リトの言葉に、皆が笑顔になる。

「レォンにーに!」
「やさしー!」
「羽、すごぃ!」
「あそぶー!」

 ふわふわの耳と、ほわほわのしっぽで抱きつかれたレォンが真っ赤になった。
 潤んだ瞳をなかったように拭ったレォンが、笑う。

「よし! 皆で遊ぶぞ!」
「わ──!」

 レォンが抱っこして、お背なのちっちゃな翼でぱたぱた飛んであげると、皆の歓声が弾ける。

「すごーい!」
「レォンにーに!」
「お空、飛べる──!」

 照れくさそうにレォンが笑って、抱きついてくるちっちゃなもふもふを抱きしめた。

「間違いなく楽園ですよ、ジゼさま! 引っ越しましょう!」

 進言するテデの目の本気度が増してる。



 レォンと一緒に遊ぶ獣人の子どもたちは、リトが見たことがないくらい元気で、可愛くて、笑顔でいっぱいだ。

 こんな風に屈託なく笑う皆を見たのは、初めてだ。
 汚れていない、臭くない、縮れていない毛も、テデのおかげで癒された肌も、初めてだ。
 餓えていない、死にそうじゃない、殺されそうじゃない皆も、初めてだ。

「……っ ルァルしゃま、ジゼしゃま、ありあと、ござまし……!」

 深く深く頭をさげるリトに、ジゼが首を振る。

「謝罪するのはこちらだ、リト」

 真摯なジゼの言葉に、リトはそっとジゼの手を握る。

「ありあと、ござまし」

「……ぁの、ありが、とぅ……」
「……ありがとぅ」
「ぁりがとう……!」

 皆の声が重なって、皆の瞳が潤んでく。




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