【完結】もふもふ獣人転生

こわくないよ！

「テデ、やさし。治癒まほ、いたぃ、ぃたい、ないなぃ！」

　リトは獣人の子どもたち皆の頭をやさしくなでなでしながらお話しする。

「にーに、ほんと？」

「ほんと、ほんと。テデやさし。僕、びょーき、怪我、テデ治し、くれた！　ありあと、テデ」

　ぽふぽふのしっぽで頭をさげたら、ほんのり赤くなったテデが笑う。


「兄ちゃ、治した？」
「人間？」
「ちゅまほ？」
「ほんと？」
「ほんと？」

　もふもふのしっぽと、ほわほわの耳のちっちゃな獣人たちに囲まれたテデが真っ赤な頬で悶えて、あわてたように胸を叩いた。

「結構できる治癒士なんだよ、僕。魔法を使ってみてもいい？」

　顔を見合わせた皆が、そうっと後退る。
　テデがしょんぼりする前に、鞭の痕の痛ましい逞しい腕が差し出された。

「俺に使って」

　見あげたテデを見つめたアオが、頭をさげる。


「リトを治してくれて、ありがとう」

「アオ、人間に頭下げた！」
「アオにーに！」
「……にんげん、こわく、なぃ、の……？」

　ちっちゃな手がアオの白い衣の裾を握る。
　その手をぽんぽん撫でたアオは、屈んで目を合わせた。

「人間が憎くて憎くて、ずっと怨んでた。成人して強くなったら、人間なんて皆殺しにしてやろうって思ってた。でもそんなのだめだって、リト兄が止めてくれた」

　皆の目を覗き込むように、アオが言葉を紡ぐ。

「皆、リト兄が倒れるところ、見ただろ。この人間たちが、リト兄をたすけてくれたんだ。リト兄、ガリガリに痩せて鞭の痕だらけで、毛がボソボソで、苦しそうか？」

　顔を見合わせた皆が首を振る。
　ふわふわの耳と、もふもふのしっぽが、おんなじ方向にほわほわ揺れた。

「ほっぺ、あかぃ」
「つやつや」
「もふもふ！」

「リトにーに、げんき？」

「げんき！」

　むんと力こぶをつくったリトが笑う。

　ちょっこと盛りあがったよ！　えへん！

　胸を張って、しっぽぽふぽふのリトに、ジゼもテデもセバもレォンも、アオも胸を押さえてる。


「リト兄を元気にしてくれた人間たちが、俺たちに酷いことをすると思うか？」

　皆が顔を見合わせた。

「……にんげん、こぁい……」

　ちいさな声が、ふるえてる。
　アオが頷く。

「だから、俺が最初に。よかったら治癒魔法、使ってみてくれないか」

　ちいさな胸を叩いたテデが頷く。

「わかった。痛くないよ、だいじょうぶ」

　鞭打たれ、抉れた無残な痕に、テデの手のひらから、やわらかな緑の光が降り注ぐ。
　ゆっくりと肉がもりあがり、爛れた肌がよみがえり、苦しみの痕が、消えてゆく。

「わあ！」

　覗き込んだ皆の目が、輝いた。
　見つめたアオの瞳が、まるくなる。


「……すげえ。ずっと、めちゃくちゃ痛かったのに……」

「もう痛くない？」

「ああ。……痛くないなんて、生まれて初めてだ。……ありがとう」

　群青の瞳に滲む涙に、テデは首を振る。


「同族である人間が与えた苦しみと痛みを、衷心よりお詫びします。ほんとうにごめんなさい」

　頭をさげるテデと一緒に、ジゼが、セバが、頭を下げる。


「たすけるのが遅くなって、すまなかった」

「人間が与え続けた暴虐を、心からお詫びします」

　三人の垂れられたこうべを見つめた獣人の子どもたちが、息を呑む。


「……こんな人間も……いる、のか……」

　アオの声が、掠れて消えた。