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成人?
しおりを挟む馬車から降りてきたテデに駆け寄るジゼに、テデが真っ赤になって悶えてる。
「サザの口を見てくれないか」
「も、勿論です、ジゼさま!」
くねくねしながら、テデがサザの口を見てくれた。
「ちょこっと赤い、かな? 一応治癒魔法を使っておくね」
ブルルン!
頷くサザに、テデの手のひらから緑の光があふれた時だった。
つややかな飴色の扉が開いてく。
「──っ!」
駆けてきた青年に抱きつかれたリトは、息を呑む。
あざやかな群青の長めの髪が、リトの頬で揺れる。
空を溶かしたような群青の瞳が、泣きだしそうに揺れた。
ふわふわの青い耳も、もふもふの青いしっぼも、おっきな逞しい身体にも見覚えはない。
でも、なつかしい匂いは、憶えてる。
「……僕、いしょ、だた……?」
こくこくこくこく頷いた青年が、ぎゅうぎゅうリトを抱きしめる。
「俺は、きみを助け、られなくて──! 生きて、て……よかった……!」
あふれる涙で、抱きしめてくれた。
強制労働させられていた時、獣人は会話を禁じられていた。
皆で相談し、力を合わせて反逆するのを防ぐためだったのだろう。
だから、互いの名前も知らない。
口を開くと、鞭が降ってきた。
でも獣人は、鼻がとてもいいから。
一度嗅いだ匂いは忘れない。
ずっとリトを憶えていて、ずっと心配してくれていたんだ。
滲む涙に潤む視界で、リトは大きくなった背に腕を回す。
「心配、ありあと。おっき、なた」
すんすん鼻を啜った青年は頷いた。
「ご飯を食べさせてもらったら、急に体がでっかくなったんだ。きみの毛艶もとてもよくなってる。よかった」
泣きながら、笑ってくれる。
「俺はアオ、きみの名前は?」
リトの頬を伝う涙を、強制労働でごつごつになった指で、ぬぐってくれる。
「リト」
「……やっと、聞けた……!」
群青の瞳から零れ落ちてゆく涙を、リトの指がそっと拭う。
「びくり、した。前、ちっちゃ!」
リトがレォンより小柄な背丈を掌で示すのに、アオは笑った。
その低くあまくかすれる声も、ほんの少し前の、子どもらしい高い声とはまるで違う。
確かにリトはアオの匂いを憶えてる。
でもそれは泥水に汚れて、何色かもわからなくなって縮れた毛に覆われた、ちっちゃな毛玉みたいな2歳くらいの獣人だった。
いつもリトの後をついて来ようとして、振ってくる鞭にあわてて引き返してた。
すばしっこくて、可愛くて、目があうと笑ってくれた。
あの日々を思い出すだけで、涙が滲む。
「おきく、なて」
こんなに逞しい青年に成長するだなんて、びっくりだ。
誇らしい気持ちと、あのちっちゃな愛らしいアオがいなくなってしまったさみしさとが、ないまぜになるリトに、アオは胸を張る。
「俺、3つになって、成人したんだ! もう大人なんだぜ!」
胸を叩くアオに、リトがぱちぱち拍手して、ものすごく膨れた頬で我慢して立っていてくれたらしいジゼと、後ろで見守ってくれていたテデとセバが目を剥いた。
「…………は?」
「獣人、寿命、5歳。3歳、成人、子ぢゅくり、がんばゆ!」
拳を握るリトに、アオもジゼもテデもセバも真っ赤になってる。
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