上 下
129 / 189

おひめさま?

しおりを挟む



 じんとしたリトは、深々頭をさげた。

「ありあと、ござまし」

 ジゼは首を振った。

「たすけが遅くなったことを、ルァル殿下も悔いておられる。勿論、俺も」

 やさしい指が、リトの頭を撫でてくれる。

「皆、身体にも心にも傷を負っていて、人間が恐ろしいらしい。脅えて、治癒魔法をさせてもらえないと。ご飯はようやく食べてくれるようになったようだが、皆、人間が信じられないのだろうな」

 ジゼの腕が、リトをやさしく抱きしめる。

「リトが話しかけてくれたら、皆、聞いてくれるかもしれないと。……もっと早くリトに協力を頼むべきだったが……俺はリトの体調を優先してしまった。すまない」

 こぷこぷ血を吐いてたから、そんなので孤児院に来たら、いじめられて吐血してると勘違いされちゃう! ので、ジゼしゃまの対応は間違ってないよ! を、この口でどうやって言う!?


「僕、血、こぷこぷ、皆、びくり!
 ジゼしゃま、やさし、まちがぅ、なぃない!」

 サザの言葉だけじゃなく、リトの言葉も解ってくれるジゼが、抱きしめてくれる。


「……ありがとう、リト」

 ふわふわの耳の間に挟まったジゼの頬が、熱い。
 リトの頬も熱くなって、ふたりで笑う。


「……あのー、僕のこと、忘れてない……?」

 拗ねたみたいなレォンの唇が尖っていて、とってもかわいー!




 ぽくぽく歩を進めたサザと、ゆっくり街中を走ったセバとテデを乗せた馬車が孤児院という名の豪邸に到着する。
 広やかな庭には噴水まで設えられ、青空に透きとおる飛沫を振りまいている。

「ひゃー! すごぃでし!」

 ぱちぱち拍手するリトの腕のなかで、レォンが首をかしげてる。

「ジゼの家の十分の一もないぞ?」

「格、ちがぅ、でし!」

「なるほろ」

 ジゼはそっと目を伏せた。

「……よくないことだと思う。父上は民のために財を使われるが、歴代のジェディス家当主はそうではなかった。民から搾取し築いた地位も財も、穢れた、あってはならないものだ。民にお返しすべきものだと思っている」

 まっすぐなジゼの目を見あげたリトは、そっとジゼの手を握る。

「ジゼしゃま、道、おぅえん、すゆでし!」

 ぽふぽふのしっぽで、笑う。

「ぼ、僕も! 困ったことがあるなら、言うといい!」

 ぱたぱたの翼で、レォンが笑ってくれる。

 拳で解決ですね、わかります。

 ちがう、レォンしゃまなら
 ゴォガァオオォオオオ──! ってちょっとお口を開けるだけで、解決だ!




 さっとサザから降りたジゼが、リトに手を差し出してくれる。

 おひめさまになった気もちだなんて、だめなのに、でもほっぺたが熱くて鼓動が駆けて、そっと、ジゼの手に、指を重ねる。

 きゅ、と握られ、やさしく引き寄せられた。

 ふわりと宙に舞った身体を、ジゼの腕が抱きとめてくれる。

 やわらかに弧を描くふわふわのしっぽと、ほわほわの耳と一緒に、ジゼの腕のなかに飛び込んだ。


 抱きしめてくれるジゼの腕のなかで、ジゼとリトの鼓動が、溶けあうように響いてく。


 ……おひめさま、みたい。

 燃える頬で、ジゼの胸に顔を埋める。




「……あのー、僕、忘れてない?」

 ちっちゃな翼でぱたぱたサザから降りたレォンの唇が尖ってる。



しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

天使の声と魔女の呪い

狼蝶
BL
 長年王家を支えてきたホワイトローズ公爵家の三男、リリー=ホワイトローズは社交界で“氷のプリンセス”と呼ばれており、悪役令息的存在とされていた。それは誰が相手でも口を開かず冷たい視線を向けるだけで、側にはいつも二人の兄が護るように寄り添っていることから付けられた名だった。  ある日、ホワイトローズ家とライバル関係にあるブロッサム家の令嬢、フラウリーゼ=ブロッサムに心寄せる青年、アランがリリーに対し苛立ちながら学園内を歩いていると、偶然リリーが喋る場に遭遇してしまう。 『も、もぉやら・・・・・・』 『っ!!?』  果たして、リリーが隠していた彼の秘密とは――!?

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

処理中です...