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だいすき

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 ぎゅうううう

 ジゼの氷の目が刺さっても、真っ赤な頬で抱きしめてくれたテデが、リトの様子を確かめる。

「どう?」

「ちょと、くるし、でし」


 ぎゅうぎゅうだよ。


「リト──! 大丈夫か──!」

 真っ青になって、テデを押しのけようとするジゼに、テデは首を振る。

「今のは、圧迫がしんどいだけだよね? 血を吐きそうとか、息ができないとか、苦しくてたまらないとか、そういうのは?」

 リトはふるふる首を振る。

「なぃでし」

「よかった」

 テデの手が、リトの頭をなでなでなでなでしてくれる。

「それは診察じゃないだろう」

 ぺい、とジゼに手を払われたテデが

「ジゼさまが触れてくださった──!」

 真っ赤な頬で喜んでる。


「この間のお茶会は、まだちょっと心配でしたが、もう魔力はリトの身体になじんだと見ていいでしょう。でもこんなにちいさな子どもに魔力がある、という状態自体がふつうじゃないんだ。無理しないように。気持ちわるくなったりしたら、すぐ言うんだよ」

 頭をなでなでなでなでしてくれるテデに、こくりと頷く。

「あい! テデ、毎日、ありあと、ござまし」

「リトをたすけられて、うれしい」

 赤い頬で笑ってくれる。
 隣のジゼが月の睫を伏せて、リトの指を握った。

「リト」

 拗ねたみたいにほんのり尖った唇で、名を呼んでくれるたび、あまい痺れが指先まで駆けてゆく。


「ジゼしゃま」

 そっと、ジゼの指を握る。


 手を握る

 ただそれだけなのに、心がとくとく駆けてゆく

 見あげる瞳に映るあなたで、心までいっぱいになって

 ジゼだけが、世界になる



 やさしく頬を撫でてくれる指が、ふわふわの耳をくすぐった。

「テデから許可が出たら、獣人たちの孤児院にリトを連れていってもよいとルァルさまより下知があった。──行きたいか?」

「あい!」

 こくこく頷くリトに、ジゼは目を伏せる。
 つながったままの指が、ぎゅ、と握られた。

「……傍に、いて、くれる、か」

「終生、ぉ仕え!」

 ちっちゃな胸を叩いて、笑う。


「ずと、ジゼしゃま、おそば、おぃて、くだしあ」

 熱い頬で、笑う。
 ぶんぶんしっぽが、揺れている。


「──リト」

 ぎゅうぎゅう、ジゼが抱きしめてくれる。


 もう
『こぷ』
 ならない

 ジゼを心配させなくていい


 リトはそっとジゼの背に手を回す。

「ジゼしゃま」


 リトよりずっと広いジゼの背を、やさしくぽんぽんしたら、ほんのり赤い耳でジゼが照れくさそうに俯いた。

「……なさけ、なくて……」

「かぁいーでし!」


『ジゼしゃま、だいしゅき!』

 あふれそうな言葉を、呑み込んだ。


 ジゼは、とても、とてもやさしいから。
 すきだと言われると、気にしてしまうかもしれないから。


 ジゼには、最上のしあわせを掴んでほしい。


 相手が、アリアスでも、ルァルでも、カィトでも、ノァでも、誰を選んだとしても、ジゼが最高にしあわせになってくれるなら、心から応援したい。



 僕の胸は、砕けても

 あなたの傍なら、きっと、笑える





 だから

『だいすき』

 言えないけれど



 ぶんぶん揺れるしっぽが、ほわほわあなたへと向く耳が、あなたばかりを映す目が

『だいすき』

 伝えてしまうのは、ゆるしてください





 ゲームの画面で見たときから

 あなたが、すきです






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