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我慢です

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「はぅう!」

 胸を押さえたリトがもだもだしたら、隣のジゼがふくれて、きゅ、と小指を握ってくれた。

「はぅあ──!」

 耳まで燃えたリトが胸を押さえてうずくまる。

「リトは完璧にこの癖を会得したようだな」

 ゲォルグと一緒に赤い頬で戻ってきたセバがうむうむしてる。

「リト、リト、これうまいー!」

 レォンがもぐもぐしてるのは、シュークリームタワー、くろかんぶっしゅ? だ。ほんとに塔だよ、見あげるくらいおっきいよ! すごい!

「はわわわわ! すごぃ、でし!」

 ぱちぱち拍手するリトのしっぽがぶんぶんで、料理人の皆さんが真っ赤なほっぺでもだもだしてる。

「ふふん、ジェディス家の料理長には負けられませんからね」

 長い黒髪を掻きあげるのは、料理人よりホストが似合いそうな細腰の青年だった。

 これはジェディス家のガチムチ料理長×帝宮料理長!?
 いやいや待つんだ、ここはホスト×ガチムチという大変垂涎な可能性も──!

「リトの目が爛々してる! なんか楽しいこと考えてるでしょ、僕にも教えて!」

 お茶会に招待されたのだろう、駆けてきたアリアスの目も爛々してる。

「レォンさまにお目にかかる奇跡を賜り、恐悦至極に存じます。本日の菓子の製作指揮を任されました帝宮料理長ニフにございます」

 うやうやしくこうべを垂れるニフに、レォンの目がきらきらした。

「めちゃくちゃうまい!」

「勿体ないお言葉を賜り、料理人一同を代表し、心からの感謝を申しあげます。ありがとうございます、レォンさま」

「ありがとうございます!」
「レォンさま!」

 真っ赤な頬で頭をさげる料理人たちに、レォンは赤い頬で笑った。

「その、今日は、僕のために、ありがとう」

「わぁあ──!」

 わきおこる歓声にびっくりしたように闇の瞳を見開くレォンに、リトはほわほわしっぽを揺らして微笑んだ。

「皆、レォンしゃま、だいしゅき。わかりゅ、ましぁ?」

 広げたリトの腕のなかに、ぽふりとおさまったレォンのちいさな顔が、リトの胸にうまる。

「……うん」

 リトのちっちゃな手が、レォンのちっちゃな頭をなでなでする。
 ふわふわのしっぽが、ぽふぽふ揺れた。

「ひどぃ、こわぃ、どこでも、いるでし。でも、たぶん、おんなじひと、やさしぃ、あったかぃ、も、あるでし。まっくら、闇、ちっちゃぃ、光、皆のなか、きっとありゅ」

 リトはレォンの大きな瞳を覗き込む。

「レォンしゃま、つぉい、でも、むかちゅく、ぺぃ、しなぃで、くれりゅ、ほんとの、きらきら、ちゅよさでし!」


 ぎゅうぅ

 うるうるになった瞳で抱きつくレォンを、リトのちっちゃな腕が抱きしめる。


「レォンしゃま、よく、がんば、ましあ。とっても、とっても、えらぃ、でし!」

「ふぇえぇええ──!」

 涙にふるえる肩を、抱きしめる。


 隣でジゼがちょっと拗ねた唇で、リトのちっちゃな背に、お背なをくっつける。

「……我慢、するから。……あとで、褒めて」


 ちっちゃな、ちっちゃな背中から聞こえた囁きに、耳まで燃えたリトが跳びあがる。

「あい!」


 ぶんぶんするしっぽに、わあわあ泣いていたレォンが、つまらなそうに唇を尖らせて、皆が赤い頬で笑った。




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