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光の速さ
しおりを挟むひかえめな、ちいさな声が、ぽそぽそ響く。
「……あー、あのー、ここ、で試験、と聞いた、のだ、が……」
真っ赤なレォンの背中のちっちゃな羽が、ぱたぱたしてる。
真っ赤なセバが微笑んで、レォンを手招いた。
「リトがちょっと回復する間、待ってくださいますか」
「具合がわるいのか、リト──!」
ぱたぱたしながら駆けてきてくれるレォンに、リトはふるふる首を振る。
「僕、だぃじょぶでし」
ちっちゃな胸を叩いたら、隣でジゼが眉を下げる。
「俺が、リトに酷いことを──」
「しぁわせでし!」
きゅう
抱きついたら、真っ赤な頬で、泣きだしそうな瞳で笑ってくれる。
頭を、耳を、しっぽをなでなでしてくれるやさしい指に、うっとりしたら、レォンの唇が拗ねたように尖った。
「……ぼ、僕、僕も……」
瞬いたセバが、レォンの頭をなでなでする。
がばっと顔をあげるレォンが、真っ赤だ。
「レォンさまは、慣れない人の暮らしに素晴らしく適応してくださっています。さすが闇龍さまですね」
「う、うむ!」
真っ赤な頬で頷いて、太いしっぽをぽしぽしするレォンに、厨房の皆が胸を押さえてる。
ジゼに抱っこしてもらいながらテデの治癒魔法を受けるリトをしばらく赤い頬で見つめたレォンが、背の高いセバを見あげる。
「……せ、セバは、もう、誰かのものなのか?」
バァン──!
厨房の扉が音を立てて開いた。
「危険を感じて」
執務を放り出して爆速で駆けつけたのだろうゲォルグの月の髪が、ほんのひと筋乱れてる。
「ゲォルグさま、御髪が」
月の髪へと伸びるセバの指に、やわらかにゲォルグが目を細める。
伸びたゲォルグの指が、やさしくセバの頬を撫でた。
「構わん、セバ、大事ないか」
「はい、わがきみ」
微笑んで胸に手をあて、膝を折るセバに、見開かれたレォンの闇の瞳が、絶望になってる。
「……せ、セバは……」
レォンの前に屈んだゲォルグが、目を合わせる。
まっすぐ闇の瞳を見つめたゲォルグは告げた。
「畏れながら、闇龍レォンさま。セバは、私のものにございます」
断言した!
耳まで真っ赤になったセバが、とろけるように笑う。
「はい、わがきみ」
ゲォルグとセバをかわりばんこに見つめたレォンは、しょんもり翼を畳んだ。
「……そぅか、解った」
落ちるレォンの肩を、セバの大きな手がやさしく包む。
「レォンさまだけの誰かは、きっといます。レォンさまをお待ちしていますよ」
「そ、そうか──!」
真っ赤になったレォンのちっちゃな羽が、ぶわりと広がって、ぱたぱたしてる。
厨房にいる皆で真っ赤になって、胸を押さえてうずくまった。
「では、試験を開始します」
懐中時計を手に宣言するセバに、リトとレォンは緊張の面持ちでペンを握る。
「はじめ!」
セバお手製の試験問題に、リトは喰らいつくように文字を書き込んだ。
受験勉強みたいだよ。
異世界に来ても試験があるなんて思ってなかったよ。
「ふにふに」
懸命に、絵みたいな文字を書くリトの耳としっぽが、ぽわぽわ揺れる。
リトをお膝抱っこしてくれているジゼが、真っ赤な頬で胸を押さえてる。
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