【完結】もふもふ獣人転生

  *  

文字の大きさ
上 下
105 / 207

くちゅくちゅぺ!

しおりを挟む



 さあ、ここからリトの出番だ!

「レォンしゃま、お菓子、食べゆ、歯磨き、しなぃ、虫歯、いたぃ、いたい!」

 両手を両頬にあてて、口を縦長に開けて恐怖を表してしっぽをボフボフにするリトに

「もういやだ──!」

 涙目になったレォンのちっちゃな手を握る。

「歯磨き、大事でし!」

「う、うむ! 教えてくれ!」

「あい!」

 ちっちゃい歯ブラシを、リトのちっちゃい手が掲げる。

 BLゲームの世界だからか、帝都学究院の研究の賜物なのか、ちゃんと歯ブラシと歯磨き粉があるんだよ。すごい。

「レォンしゃま、あーん、でし」

「あーん?」

 首を傾げるレォンの背中で、ちっちゃい翼がぱたりと揺れた。

「お口、開けて、くだしぁ」

 虫歯を抜いた時のことを思い出したのか、ビクっとしたレォンのちっちゃな翼が、硬直してる。

「だいじょぶ、いたぃ、なぃないでし」

 胸を叩くリトに

「わ、わかた」

 ぷるぷる震える翼で、それでも口を開けてくれるレォンが、勇者だ。

「こりぇ、歯、こしゅこしゅ、しゅりゅでし」

 噛んだ!
 どこを噛んだのか自分でもいまいち解らないけど、噛んだ!

 いつもジゼの歯を磨いているときみたいに、歯茎を傷つけないようやさしくやさしく丁寧に磨いてゆく。

「いたぃ、ない、でしあ?」

「こしょこしょする」

 真面目な顔で告げるレォンに、ふわふわ笑う。

「食べる、歯磨き、虫歯、なぃないでし!」

「わかった! 必ず歯磨きすると誓おう!」

 レォンのちっちゃな口のなかを丁寧に磨き終えたリトは、胸を張る。

「水、口、なか、くちゅくちゅ、ぺ! でし!」

「く、くちゅくちゅぺ! とは?」

 ちっちゃなレォンが困惑してる。

「やてみるでし!」

 水を口に含んだリトが、くちゅくちゅ口の中をゆすいでから、ぺ、と吐き出す。

「む。難しそうだな」

「簡単でし! れんしゅ!」

「わ、わかった」

 水を口に含んだレォンが、口のなかに水を巡らせてから、ぺ、と吐き出す。


 ドォオオン──!

 水が弾丸みたいになって、洗面台を破壊した!


「わー!」

 吹き飛ばされそうなリトを、しゃっと伸びたレォンのちっちゃな腕が止めてくれる。

「す、すまぬ! か、加減を間違えた!」

 あわあわするレォンとリトの前に、しゃっと駆けつけてくれたセバが、完璧な家令の顔で微笑んだ。

「すぐ修繕しますので、レォン様は鍛錬場で『くちゅくちゅぺ』の練習を致しましょう」

「わ、わかた!」



 早速ジェディス家の邸の奥に設えられている広大な鍛錬場に移動したレォンは、コップのなかの水を見つめる。

「こう、そうっと吐けばいいんだな、そうっと…… くちゅくちゅ……ぺ」

 ドォオン──!

 バゴォオン──!

 ズガァアン──!

 歯磨きは簡単に会得してくれたレォンだが、最難関は『くちゅくちゅぺ』だった!



 ボロボロになった鍛錬場に、久しぶりに鍛錬しようとやってきたジゼが遠い目になってる。

「す、すまない!」

 涙目で翼も畳まれてしまったレォンに、ジゼは首を振った。

「練習は大切です。お気になさらず」

 微笑んだジゼは、帝宮を仰ぎ見る。

「……修理費は国に請求しよう」

「ですね」

 しゃっと傍に控えてくれたセバが、見積書を光速で作成してる。

 鍛錬場と洗面台と損傷した別邸の修繕費だけじゃなく、レォン用別邸の清掃費、敷布やカーテンの洗濯代、埃玉になってしまったリトの慰労を籠めて、お給金3割増しで請求してる。

「よくやった」

 ジゼの笑みに、セバは完璧な家令の顔で胸に手をあてた。






しおりを挟む
感想 255

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は? 最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか? 人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。 よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。 ハッピーエンド確定 ※は性的描写あり 【完結】2021/10/31 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ 2021/10/03  エブリスタ、BLカテゴリー 1位

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...