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尊敬なのです

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 一緒に胸を押さえていたセバが、何事もなかったかのように、銀縁眼鏡を光らせて背を伸ばす。

「ではレォンさま、手あたり次第に食べるのではなく、どのようなお菓子なのか説明しますので、解説を聞きながら、すきなお菓子なのか、そうでもないのか、考えてみてください。おすきなものは、こちらの白いお皿に、苦手なものはこちらの青いお皿に、半分残してください」

「す、すきなものも、半分なのか!?」

 絶望の目になるレォンに、セバは微笑んだ。

「たくさんありますから、半分ずつでもお腹いっぱいになりますよ。食べたら歯磨きです。また虫歯になっては大変ですからね」

「た、大変だ!」

 真っ青になるレォンに、リトはしっぽをぽふぽふしながらちっちゃな胸を叩く。

「僕が、歯磨き、お教え、しゅりゅでし!」

 噛んだ!

 生温かい目になったレォンが、背伸びしてぽふぽふ頭を撫でてくれる。
 やさしー!

「よろしく頼む、リト」

「あい!」

 胸を叩いて、しっぽぽふぽふのリトに、レォンのほっぺもセバのほっぺも赤くなってる。

 かわいー。

 セバがすごいのは、一瞬で立ち直るところだ。
 にやけて溶けた顔から一瞬で、しゃっと凛々しいかんばせに戻ったセバは、いかめしく腕を組んだ。

「ではリトは、お菓子の説明をよく聞いて纏めるように。後で試験するからな」

「ぴゃい!」

 ぼわぼわになったしっぽと一緒に涙目になったリトに、レォンが跳びあがる。

「ぼ、僕も試験か!?」

「レォンさまは、まず人間の世界のお菓子というものに、どんなものがあるのか知っていただこうと思うのです。リトは食べましたね」

「……うまうまでし」

 しょんもりしていいのか、ぽふぽふしていいのか謎な感じに、ふわふわの耳と、ほわほわのしっぽが彷徨った。

「り、リトが頑張るなら、僕も頑張る!」

 レォンがちっちゃな拳を握る。

 かぁいー!
 しかし殴られると世界が吹っ飛ぶ拳でし! つぉい!

 拳にちょっとビクっとしたセバは、ビクっとしたことを隠すように、うやうやしく口を開く。

「畏れながらレォンさまは、字をお書きになれますか?」

「精霊語なら書けるぞ!」

 えへんとレォンが胸を張る。
 すさかずセバとリトが拍手した。

「素晴らしい!」

「すごいでし、レォンしゃま!」

 なんだか接待みたいだけど、違うのです!
 ちっちゃいレォンが胸を張って、お背な翼ぱたぱたの愛らしさに、拍手せずにはいられないのです!

 目で語り合うリトとセバが、うむうむしてる。
 次の瞬間、セバは完璧な家令長の顔で、銀縁眼鏡を光らせた。

「ではお菓子の説明を簡単にしますので、書き留めてみてください。あとでリトと一緒に試験をしてみましょうね」

 紙やインクやペンをさっと用意してくれるセバの銀縁眼鏡に、ちょっとビクっとしたレォンが、ちっちゃな拳を握る。

「う、うむ、わかた!」

「レォンしゃま、わじゃわじゃ、しけん、うけりゅ、えらぃでし……!」

 噛みまくりのリトの目には、尊敬しかない。


「そ、そうか!」

 赤くなったレォンの羽が、ぱたぱた3倍速だ。





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