92 / 206
揺るがないのです
しおりを挟む『テデ、ジゼ、ありがとー』
お礼を言ってくれるレォンの翼が、ぱたりと揺れる。
「レォンしゃま、テデ、ジゼしゃま、に、ありあと、でし!」
リトの通訳に、しゃちこばったテデが赤くなって、ジゼは手を胸にこうべを垂れた。
「ありがたき、しあわせ」
ふわりと流れる白いマントまで、完璧だ!
さすが、最愛の推し!
「ジゼしゃま、かこぃー!」
熱い頬でぱちぱち拍手するリトに、皆の生温かい視線が降りそそぐ。
真っ赤になったジゼが、両手で顔を覆ってた。
真っ赤なお耳が覗いてる。
推しが、かわいい。
「アリアスしゃま、ジゼしゃま、かこぃーのでし!」
アピールしてみた!
「う、うん、そうだね」
赤い頬で頷いてくれるアリアスは、是非ジゼルートに進んでください!
他のルートはゆるしません!
きゅ、と拳を握るリトに、肩を揺らして笑ったルァルは、痛みが消えてごきげんになった様子のレォンを見あげた。
「伺いたいのだが、闇龍様は、我が国を滅ぼすおつもりはないのだろうか」
強張った頬で尋ねるルァルの隣で、リトはちっちゃな手を挙げた。
「レォンしゃま、人間、国、滅ぼしたぃ、でしあ?」
レォンのおっきな瞳が、輝いた。
『お菓子食べたい』
きもちわかる。
美味しいお菓子のある生活と、ない生活、想像するだけでも、泣いちゃう!
「なるほろ。歯磨き、するでし!」
『はみがき?』
首を傾げるレォンに、リトはちいさな胸を叩く。
「僕、お教え、しゅる!」
噛んだ!
レォンとルァルが生温かい目で、微笑んでくれる。
やさしい。
「レォンしゃま、お菓子、食べたぃでし! 僕、歯磨き、お教え、すゆでし!」
噛まなかった!
えへんと胸を張ったら、ジゼが顔を覆ってた。
「な、なるほど、人間のお菓子をご所望と。それで攻撃を思い止まってくださるのか」
ルァルの言葉に、リトは首を傾げる。
「レォンしゃま、人間、攻撃したぃ、でしあ?」
ふるふる闇龍は首を振る。
『お菓子食べたい!』
揺るがない信念!
大切だよね!
「お菓子でし」
うむうむするリトとレォンに、ずっと硬かったルァルの表情が、ようやくほどけた。
「攻撃しないでくださることに、心から感謝する」
頭を下げるルァルと一緒に、皆で頭をさげた。
「闇龍様に、感謝を!」
胸に手をあて、膝を折る。
リトもふわふわしっぽでお辞儀した。
魔獣討伐って言ってたし、闘うことになると思ってた。
BLゲームでも戦闘があって、主人公の印象がよくないと惨敗してドディア帝国滅亡ルートというのが開いた気がする。
国も街もボロボロになって皆で逃げるんだけど、主人公が皆を励ます姿が輝いていて、ボロボロになってもかっこいー攻略対象たちが素晴らしくて、意外に人気のあるスチルだった気がする。
でもそんな滅亡ルートは、ぺい! のほうがいいのです!
「それではお菓子を定期的に献上に参りましょう」
顔をあげて微笑むルァルの言葉を通訳だ。
「持てくるでし!」
胸を張るリトに、レォンはふるふる首を振る。
『色んなの、見たい!』
「見たぃでし」
「な、なるほど、それでは菓子の一覧をお持ちして──」
『人間の国、行く──!』
「人間、国、行くでし!」
皆の顔が、真っ青になった。
1,969
お気に入りに追加
3,822
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は?
最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか?
人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。
よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。
ハッピーエンド確定
※は性的描写あり
【完結】2021/10/31
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ
2021/10/03 エブリスタ、BLカテゴリー 1位
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる