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ふにゅにゅ!

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 手を挙げたら、ルァルもカィトもジゼも、ノァもアリアスもレォンも、ちいさきものを見る目になった。

 ぷくりとふくれたリトは、むんと上腕二頭筋を盛りあげる。
 ちょこっと、ふくらんだよ!

「えへへ」

 しっぽをぽふぽふするリトの頭を、ジゼがなでなでなでなでなでなでなでなでしてくれる。

 ちょっと赤くなったレォンが、囁く。

『リトが頑張ってくれるなら、うれしー』

「やるでし!」

 きゅきゅ、と白い従僕服を腕まくりするリトのしっぽが、やる気に満ち溢れて、ぶんぶん揺れる。

 皆が赤い顔で、胸を押さえて崩れ落ちた。


 癖なのかな? 今必要なのかな?

 首を傾げつつリトはテデを振り返る。

「テデ、治癒、おねが、しましあ!」

「わ、わかた!」

 テデの掌から緑の光があふれ出す。
 倒れ伏している皆を後ろに、リトはぎゅっと槍の柄を掴んだ。

 息を、吸う。

 身体の隅々にまで、酸素を行き渡らせるように。
 しずかに、深く、息を吸う。

「今だ!」

 テデの声とともに、獣人の力を解き放つ──!


「ふにゅにゅにゅにゅにゅ──!」

 ちっちゃなリトの両の手が掴む槍の柄が、めこりと凹む。


「……え?」

 茫然とする皆を後ろに、

「リト──!」

 前に出たジゼが氷魔法を発動した瞬間、


「ふに──────!」

 ずぼグシャアァア──!

 紅い血を噴きあげ、龍の歯が抜けた。


「あぎゃぎゃぎゃギャア──!」

 真っ暗な世界を轟かせるレォンの悲鳴は、

「ふぬぬぬぬぬ!」
「く──!」

 テデとジゼの懸命の魔法で、弱々しくなってゆく。

 溢れ落ちた血が止まり、抉れた歯茎が盛りあがってゆく。

 衝撃に硬直していたレォンが、ふるふる震えた。

『あぅあー、びくり、したー、痛かった、よぅ!』

 ばっしゃーん!

 大きな瞳から涙が降ってきて、耳としっぽをべしょべしょに濡らしたリトは、ぎゅ、と震える鉤爪を握る。

「歯、抜けた、でし、いたい、いたぃ、ぴゅー! でし!」

 涙の雫を弾いて、笑った。





 テデの治癒魔法とジゼの氷魔法のおかげで、闇龍レォンの虫歯は痛くなくなったらしい。

『うわあん! ありがとー!』

 闇龍の巨体に抱きつかれ、圧し潰されそうになったリトは

「ふにゅにゅにゅにゅ!」

 何とか踏ん張った!

 びっくりするくらいおっきい龍さんにも潰されないなんて、獣人、すごい。

 ぽふぽふしっぽを揺らしたリトは、レォンの腕をぽふぽふする。

「お礼、テデ、ジゼしゃまに!」

『ああ、そうだね、ありがとー』

 ぺこりと巨大な頭をさげてくれるレォンの謝礼を、リトが伝える。

「ありあと、でし!」

 跳びあがったテデがわたわたして、ジゼは首を振る。

「お褒めのお言葉は、どうぞリトに」

 微笑んだジゼが、誇らしそうにリトを前に出してくれる。

「リト、よくがんばった」

 なでなでなでなでなでなでしてくれるジゼに、耳まで熱いリトのしっぽがぶんぶん揺れた。

「えへへ」

 ちょこっと胸を張ってみた!

「はぅあ──!」

 レォンも皆もジゼも、真っ赤になってうずくまる。

 首を傾げたリトは、もだもだしてるレォンの腕をぽふぽふした。

「テデ、ジゼしゃま、いたぃ、いたい、ぴゅー!」

 してくれなかったら、めちゃくちゃ痛いところだからね!
 僕のしたのは、ちょぴっとなのです。

 でもジゼしゃまがなでなでしてくれたのは

「えへへへへ」

 熱い頬でぽふぽふ揺れるしっぽに、皆が胸を押さえてる。






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