上 下
89 / 191

ぷるっぷる

しおりを挟む



『ど、どしたの!』

 泣きだしそうなリトにびっくりしたように、ばさりと翼を広げたレォンに、皆がビクっと震えた。

 レォンの激痛を思うと涙目になってしまったリトは、うるうるしながらレォンを見あげる。

「……あ、あの、いたぃいたぃ、止める……歯、抜く、でし……」

 闇龍の巨体が固まった。

 うろうろと闇の瞳が彷徨う。

『…………………………また生えてくるのかな?』

 た、大変に残念なのですが!

「人間、大人、生えなぃ、でし」

 ぺしゃりと耳としっぽを垂らすリトに、龍が胸を張る。

『僕、子ども!』

「レォンしゃま、子ども、歯、生えゆ?」

 ふわふわの耳としっぽと一緒に首を傾げるリトに、皆が悶えて、皆で唸った。

「寡聞にして龍の歯の生えかわりは存じあげません……」

 残念そうに眉をさげるテデと一緒に、リトの耳としっぽもぺしゃんと後ろに垂れる。

「知らな、でし」

 哀し気にレォンの大きな瞳が垂れた。

『……抜かないと痛いまま?』

「抜かない、いたぃ?」

 振り返ったら、テデは重々しく頷いた。

「これはかなり重篤な虫歯です。抜かない場合は痛いでしょう」

「いたぃでし」

『あぅあー!』

 悶えるレォンにつれて真っ暗な世界が、ゆさゆさ揺れる。

「ぎゃあ!」

 飛びあがったノァが早速逃げようとして、咄嗟に跳んだのだろうカィトがノァの腰に抱きついた。

「置いていくな!」

 あれ、もしかしてカィト×ノァなの!?
 いや、待つんだ、ここはノァ×カィトという涎ものの可能性も……!

「きた──!」

 向こうのアリアスの目も爛々してる。

 ……というか、あの、アリアスは誰狙いなのかな……?


『わかた! 歯、抜く!』

『ずっと痛い』と『歯が無くなる』を天秤にかけて決意したらしいレォンが、涙の瞳で宣言した。

「歯、抜くでし、おてつだ、おねが、しましぁ!」

 きゅ、とちいさな両の拳をにぎって、もふもふのしっぽを決意にぴんと立ててお願いしたリトに、皆が赤い顔で胸を押さえた。

「わ、解った。どうやって歯を抜く?」

 復活したジゼの言葉に、テデはちょっと頭をひねる。

「ふつうなら鉗子を使って気合を入れて引っこ抜くんですが、歯がおっきいので……ジゼさま、魔法で歯の周囲を冷やし過ぎないように冷却してください。痛みを軽減、止血と感染症予防にもなります。カィト様、槍を歯に貫通させられますか?」

 闇龍と大きな歯を見あげたカィトが引き攣った。
 歯の一本だけで、カィトの身長くらいある。
 ビビる気持ちは、とてもよくわかる。

 こんなこともあろうかと、持ってこられた槍が、輝いた。

 いやいやいや、こんなことないよね!?
 突っ込んだのはリトだけだったらしい。

 ふつう龍と闘うためには、距離を取って闘うためにも攻撃力としても槍が必須なんだって。
 へー。
 感心したのもリトだけだったらしい。


「や、やってみよう。リト、攻撃されないよう、お願いしてくれるか」

 お願いするカィトが真っ青だ。
 ぷるっぷるしてる。
 腰が引けてる。

 かわいい。


「かしこま、ましぁ!」

 ぽふりとリトは胸を叩いた。




しおりを挟む
感想 232

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり… 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

処理中です...