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さいわいなのです

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 次の瞬間、リトとアリアスは、魔紋の部屋に立っていた。

「リト──!」

 ジゼの悲鳴が聞こえる。

「なりません、ジゼ殿! 今は強制覚醒中、堪えてくだされ──!」

 おじいちゃん魔導士と

「カィト、ジゼを止めろ!」

 ルァルの声に応じたカィトに止められたジゼが、それでも伸ばしてくれる手に、足を引き摺って駆けたリトが、手を伸ばそうとして、アリアスに止められた。

「あ、危ないよ、リト! なんか光がビャービャーしてるから!」

 柱も天井も床も、びっしり描き込まれた魔紋が光を噴きあげる。

「ジ、ゼしゃ、ま……!」

「リト──!」

 手を伸ばすのに、カィトとアリアスに止められてふれられない二人に、ノァの目が遠くなる。

「いやいやいや、この光がおさまったら強制覚醒終了だから。もうすぐだから。今生の別れじゃないから」

 突っ込むノァに、吹き出しかけたルァルは真っ青だった。

「俺が許可したから……リト、無事か……!」

「アリアスしゃま、たしゅけ、くらしゃいましぁ!」

 血の止まった口で手を振ったら、皆の顔が安堵に緩んだ。

「おぉおお……! この光は──!」

 お髭の魔導士おじいちゃんの声とともに、アリアスの額に魔紋が輝き、まばゆい光があふれだす。

「……まぶし?」

 首を傾げるリトのおでこに、居並ぶ皆が愕然と目を瞠る。

「ま、さか──!」
「獣人が、魔法を……?」
「それも光魔法──!」

 いやいやいや、そんなフラグは結構ですよ。
 モブでさえない僕のお勤めは、ジゼのお靴をふところであたためることなのです──!

 ……お靴、ふところに入らないけど。

 わたわたするリトと、アリアスの額からあふれる光がおさまってゆく。
 部屋を埋め尽くす魔紋から、光が消えてゆく。

「じじさま!」

 ジゼの悲鳴に、おじいちゃんは頷いた。

「よろしかろ」

 声と同時にジゼが踏み出す。

「リト──!」

「ジゼしゃま……!」

 繋がる指に、どうしてだろう、涙がこぼれる。


 ……あぁ、そうか、口から血がごぼごぼしたから、もしかしたら死んじゃうかもしれなくて、ジゼにもう二度と逢えないかもしれなかったんだ。



 あなたを、また、この目に映せる。

 あなたと、また、この手を繋げる。


 それが、どんなにさいわいなのか

 噛み締めたから、涙がこぼれる。



「リト……! テデを呼んだ、すぐ診てもらおう」

 抱きあげようとしてくれるジゼの胸が血塗れにならないよう、そっとリトは手をついた。

「よごれ、でし、ジゼしゃま」


 それに、ジゼが抱きしめるのは、リトじゃない。

 主人公、アリアスだ。


「アリアスしゃま、まだ、足、お辛ぃ、おたしゅけ、おねがぃ」

 泣き笑いで促すリトを、しなやかな腕が抱きあげる。

「だめ……!」

 あわてて降りようとするリトを、ジゼの腕が抱き寄せた。


 きつく、きつく、抱きしめられる。


「……出逢ったときもリトを助けたかったのに、間に合わなくて……またリトを酷い目に──!」

 透きとおる蒼の瞳が、歪む。

 滲む涙に、リトはそっと、指をのばした。



「ジゼしゃま、おそば、いつも、至上、さいわい、でし」


 血の唇で、笑う。



「……っ」


 抱き寄せて、抱きしめてくれたジゼの頬が、こぼれる涙で濡れてゆく。







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