【完結】もふもふ獣人転生

うなれ！

「……いたい、でし……」

　付き添いだから痛くないと思ってた！
　甘かった！

　しょんぼりしながら、真っ白な光の世界で、リトはぎゅうぎゅうアリアスの手を握る。

「アリアス、しゃま、だいじょぶ、でしか！」

　ガクンと仰け反って、白目を剥いてるアリアスをやさしく揺さぶってみた！

　息してないっぽいよ、がんばれ、主人公──！

　人工呼吸は今、口から血がこぽこぽだからね。余計窒息させそうだからね。
　胸をとんとんしてみた。

　桜の髪がふぁさふぁさ揺れて
「……う、ぅん……」
　悶える主人公が可愛い。

「……は！　痛すぎて意識飛んでた……？　一番苦しい時間をかっ飛ばせた？　よかった！　じゃないよ、リト！　血！　うわあん！　僕のせいでごめんねぇえええ──！」

　アリアスが号泣しながら抱きしめてくれる。

「よ、よごれ、でし、アリアス、しゃま」

「既に鼻水と涎と涙でドロドロだよ！　止血しないと──！」

　叫んだアリアスがリトの口を塞ごうとして、窒息させることに気づいたみたいに止まる。

「……吐血の止血って、どうするのかな？」

　ふたりで首を傾げてみた。
　たりたり、リトの口から血が溢れてく。

「あばばばば！　強制覚醒、中止中止！　リトが死んじゃう──！」

　桜の髪をぴょこぴょこ揺らして、アリアスが飛び跳ねて手を振ってくれる。

　が、光に覆われた世界は、揺らがない。
　誰の声もしないし、何の反応も返ってこない。


「……もしかしてここ、異次元？」

　アリアスの顔が青くなる。

「アリアスしゃま、もぅ、痛く、ないでし、か？」

「なんかね、痛みの閾値が上がった感じ？　前だと死んでる痛みだと思うけど、今、ふつー！」

「そ、そりぇ、やば、のでし、アリアスしゃま！」

　噛んだ！

「いやだって、これ痛すぎるでしょ。脳内麻薬でいっぱいにしないと乗り越えられないから、脳が必死で頑張ってくれてるんだよ！」

　きもちわかる。
　リトの痛みの閾値も、さっきまでとは格が違う気がする。

「……ねえねえ、強制覚醒ってさ、もしかして、このクソ痛いので魔力を引き出して、魔法を発動して帰ってこいってことなのかな？　光魔法を使って、異次元を突破しろってこと？」

　アリアスの顔が、引き攣ってる。

「そ、そんなに厳しい試練を何の説明もなくぶっつけ本番で受けろとか、ありえないんですけど──！」

　号泣するアリアスに、リトはこくこく頷いた。

「ひ、ひどいでし！」

「こんな痛すぎる時点で酷すぎるでしょ。ゲームしてた時は主人公が『ぎゃー！』とか『うわあ！』とか『がは！』とか言ってても、『はいはいお疲れ、がんばれー』みたいに気楽に応援してたけど、実体験すると泣く！」

　こくこく頷く。
　今、皆が思ってるのは間違いなく、『はいはいお疲れー』だ！

　と思ってたけど、心配して、泣いてくださる方も、いるみたい……？

「うわぁん！　ありあと、ござまし！　だいじょぶ、僕、つぉい子、でし！」

　しっぽも一緒にぶんぶん振ってみた！


　届け！　ありあと、ござまし──！


「……リト、どこに向かってお礼を言ってるのかな？」

「天空でし！」

　胸を張って、ぽしぽししっぽを振るリトに、アリアスが生温かい目になってる。


「と、とりあえず、ここを何とか脱出しないと、リトの血が止められないよ！　ぼ、僕、光魔法使えるように頑張ってみるよ！」

　主人公が、やさしい！
　涙でちゃうよ。

「ふぬぬぬぬぬぬめぬ！」

　この世界一愛くるしいはずの主人公のかんばせが、血管ビキビキの鬼になってる。
　なんか違う話になっちゃう！

「あわわわわ」

　あわあわするリトの前で、アリアスはちいさな手を掲げる。


「リトたんのために！　うなれ、僕の光魔法──！」

　掌が、輝いた──！


　ぽひゅり


　なんか出た！