64 / 207
楽しそうです
しおりを挟む「あぅあ──!」
号泣して蹲りそうなアリアスを、駆け寄ったリトが支えた。
「アリアスしゃま……!」
「リト、手を握っててくれるよね──!? 僕のこと、見捨てないよね……?」
「勿論でし!」
胸を叩くリトに、面白そうに陽の瞳を閃かせたルァルが眉をあげる。
「強制覚醒をともに受けると申すか?」
リトの目の高さに合わせて屈んでくれたルァルが、唇を吊りあげた。
「痛いぞ~?」
ぴょこんと跳びあがったリトのしっぽが、ぷるぷる震える。
「ルァルさま!」
ジゼの氷柱の目に刺されたルァルは鼻を鳴らした。
「魔法陣が巨大だからな。手を握っていれば、強制覚醒されることになる。獣人に魔法が使えたという例は聞いたことがないゆえ、おそらく無事だろう」
痛いのが確定らしいアリアスがしょんぼりしないように、ちょっとほっとしてしまったことが解らないようにリトはしっぽに力を籠めた。
「一緒、いい、でしか?」
「痛いやもしれぬがな」
イヒヒヒヒ。
悪役みたいに笑ってもキラキラなルァル!
「り、リトまで痛くなったら、た大変、だから……ぼ、僕、ひ、ひと、りで……や、やって、み、みる、よ……!」
ダラダラ涙と鼻水を溢れさせて、ブルブル震えながら告げるアリアスを、リトのちっちゃな腕が抱きしめる。
もふもふのしっぽも一緒に、ふるえる背を抱きしめた。
「一緒、行くでし、アリアス、しゃま!」
「リト──♡」
アリアスの鼻が、リトのしっぽに埋まって、はすはすしてる。
固く抱き合うリトとアリアスに、皆が沈黙した。
ぼそりとノァの呟きが降る。
「思ってたのと違う」
「……これ、話が違うんじゃ?」
ジゼとリトとアリアスを代わる代わる見たカィトも首を傾げてる。
ジゼの額に青い血管がビキビキしてる。
「楽しい!」
ルァルの目だけがキラキラだ。
強制覚醒は大魔導堂の地下、ものすごい魔力の奔流が起きても大丈夫に造られている魔導壁の間でするという。
アリアスと手を繋いだリトは、ぶるぶる震えるアリアスのおかげで、なんとかあまりビビらずに真っ暗な地下へと足を伸ばした。
強制覚醒させる時は、立会人として保護者が来ることになっているのだけれど、アリアスの親御さんは領地で魔獣対処で大変で、とても帝都まで来られないという。
転移門を使えるのは高位貴族だけなので、男爵だと厳しいらしい。
なのでアリアスの立会人は、今回の魔獣討伐の責任者ルァル殿下だ。
くっついているので強制覚醒されるかもしれないと、ジゼがリトの立会人になってくれる。
床にはもう準備万端、ゆるやかに明滅する魔紋が床を覆うように敷き詰められ、ぼんやりした光を放っていた。
「こ、こここここわいよぅ……!」
アリアスが泣いてる。
内臓を引き千切られそうなほど痛いというのだ。
脅しじゃなく真実で、強制覚醒で運が悪いと死んでしまう人までいるらしい。
主人公だからそんなことにはならないだろうと信じつつも、リトも心配だ。
でもリトが不安がると、アリアスはもっと恐ろしくなってしまうと思うから。
「おそば、いまし、アリアス、しゃま」
ぎゅう
アリアスの手を握る。
「きと、だぃじょぶ!」
元気がちょこっとでも出るように、笑った。
2,148
お気に入りに追加
3,828
あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。

神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は?
最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか?
人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。
よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。
ハッピーエンド確定
※は性的描写あり
【完結】2021/10/31
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ
2021/10/03 エブリスタ、BLカテゴリー 1位

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる