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お茶会、ふたたび!
しおりを挟む「お待ちしてまさあ、いってらっしゃいませ、若!」
凛々しく頭をさげてくれる御者さんと、見送ってくれる白馬たちを後に、リトはジゼの少し前を歩いてご案内だ。
……ほんとはジゼのほうがよっぽど王宮内を知っているのだけれど、わちゃわちゃしてる人たちを
「ジゼしゃま、お通り、避けてくだしあ」
したり、先に立ってご案内するのは従僕のお仕事なのです。
テデのおかげで大分歩けるようになってきたけれど、それでも遅いリトの歩みを咎めることなく、ジゼはゆっくり歩いてくれる。
つっかえる言葉は、神経が魔素に侵されているから、治すのは難しいらしい。
……今は5歳だからいいと思う。
52歳になって『ジゼしゃま、だいしゅき!』
痛い、痛すぎる──!
何とかして、テデ──!
今から拝んでる。
お庭でのお茶会がすきらしい次期帝王が招いてくれたのはローズマリーによく似た爽やかな香りのハーブの苑だった。
頭の回転がよくなって若返りそうだ。ローズマリーみたいに!
ということは次期帝王ルァルはお疲れらしい。
護衛のカィトを後ろに、微笑んで白い椅子に腰かけるルァルはキラキラで、疲れてる風には全く見えないけれど、ふわふわの陽の髪がつくる影が、ちょっと色濃い気がする。
「御前に、ジゼ・ディオ・ジェディス、参りました」
胸に手をあて膝を折るジゼの右斜め45度後ろで、リトも胸に手をあてジゼより深く膝を折る。
「よく来たな」
微笑みがちょっと元気がない気がする。
ぽふりとしっぽを揺らしたリトは、ジゼの椅子を引いた。
ジゼが腰を下ろすタイミングを見計らって、さっと椅子を押しこむ。
できるようになるまで、セバの膝かっくんを何度も何度もしてしまった。
「うお!」
見ていたテデが爆笑してた。
「おや、僕が最後とは失礼しました。ノァ・ディオ・ロァルド、御前に」
微笑んで敬礼したノァが席につくと、ルァルが手を挙げる。
控えていたノァとルァルの従僕がさっと下がった。
あわあわ下がろうとするリトに、陽の瞳が降る。
「リトは茶を淹れてくれ」
「あい!」
ぴょこんと跳びあがるリトに、カィトとノァとルァルの肩が揺れて、ジゼの頬がぶすくれた。
リトはルァルとノァ、カィトとジゼの顔色を確かめる。
「ルァルしゃま、康地茶、ノァしゃま、白老茶、カィトしゃま、碧風茶、ジゼしゃま、青雷茶、いかがでし?」
ルァルの眉が上がる。
「俺は疲れているように見えるのか」
ぴょこんと跳びあがるリトに、ジゼの目がルァルを刺した。
「……ルァルさま」
地の底を這う声に、ルァルが喉の奥で笑う。
「淹れてくれ」
「僕も」
「俺も」
「頼む、リト」
「かしこま、まし!」
四つのお茶を同時に淹れるのは、相当困難だ。
『こっちの砂時計落ちた!』
『あっちも落ちた!』
『あばばばば!』
全部のお茶がダメになる予感しかしない。
なので、高位の人からふたつずつ淹れることにする!
帝宮の従僕が用意してくれていたお茶セットからお茶を選び、ちゃんと添えてくれていた香りづけの花や薬草を確認する。
「香り、甘味、足しゅ、だいじょぶ、でしか?」
「リトのすきに淹れたらいい」
ルァルの言葉に、皆が頷いてくれた。
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