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おやちゅ
しおりを挟む舞い散りまくりだった桜の花びらを拾わないように頑張って、アリアスのお帰りを頭をさげてお見送りしたら、リトはジゼの肩に白いマントを羽織らせる。
これから馬車に乗って、次期帝王のお茶会だ。
贅沢と装飾を厭うジゼの衣は、シンプルだ。
月の髪がさらさら流れて、涼やかな蒼の瞳がきらめくと、気品とあでやかさが香り立つ。
奢侈な張りぼてが、いかにみすぼらしく映るかを誰よりも突きつけるジゼの隣に堂々と並べるのは、攻略対象たちくらいだと思う。
「……めんどくさい」
魔術の鍛錬を中断されたジゼの頬がふくれてる。
ガタゴト揺れる馬車の小窓の向こうで、帝都の街並みが流れてく。
「がんばゆ、ジゼしゃま、ごほび」
リトが差しだした焼菓子に、瞬いたジゼが口を開ける。
「?」
首を傾げるリトに、ふうわり頬を朱く染めたジゼは上目遣いだ。
「……ぁーん」
ちいさな、ちいさな声に、リトのふわふわの耳がふるえる。
「!」
ぴょこんと馬車の座席から跳びあがったリトは、燃える頬で焼き菓子を差しだした。
そっと、そっと
ジゼのくちびるへ
カリリ
白い歯が、焼菓子のうえに載せられた赤いジャムを噛んだ。
ビリビリ、耳の先から、しっぽの先までふるえた。
頬が、燃える
耳が、熱い
しっぽが、ぼわぼわする
とくとく鳴る胸が、駆けてゆく。
ジゼの頬も、真っ赤だ。
「……おいし、でしか」
月の睫が伏せられる。
「……味、しない」
カリ
カリリ
指の先で、白い歯が閃くたび、焼菓子がちいさくなってゆく。
リトの指先と、ジゼのくちびるが、近づいてゆく。
ジゼの吐息が、指にふれる。
跳びあがりたいのを、ぎゅうぎゅう止めた。
鼓動が、跳ねる
頬が、燃える
しっぽが、耳が、ふるふるする
欠片になった最後の焼き菓子を噛もうと伸びた舌が、リトの指先を嘗めた。
そのやわらかな、濡れたあたたかさに、跳びあがる。
「ぴゃあ!」
耳の先からしっぽの先まで、ボフボフだ。
しっぽの先まで赤熱する。
「……あ、ごめ……」
あぅあぅあぁあ──!
声にならない悲鳴、いや、歓喜? をあげて悶えるリトと、耳まで真っ赤なジゼの隣の扉が開かれる。
「到着致しまし……っれいしましたァア──!」
バァン!
いつも音を立てずに扉を閉めてくれる御者さんが、真っ赤になって扉を叩き閉めた。
ぴょこんと跳びあがったリトと一緒に、ジゼが赤い頬を掌で覆う。
あまりのどきどきに目が回ったリトは
「きゅう」
馬車の座席でくずおれた。
「リト!」
あわあわ抱き起こしてくれるジゼの輝くようなご尊顔が、近すぎる──!
あぅあぅぁあぁアア──!
悶えるリトをぽふぽふしてくれ、ばくばくする胸を押さえるように息を整えたジゼは、馬車の扉に手を掛けた。
「……いや、うん、問題ない」
扉を開けたジゼに、御者さんは泣きそうだ。
いかついピンピンの短い髪も、もりもりしてる上腕二頭筋も、心なしかしょんもりしてる。
「若の一世一代の瞬間をお邪魔するなんて──! も、申し訳、ありませ……!」
涙が盛りあがりそうな御者さんを遮るように、ジゼが叫んだ。
「これが一世一代とか、ないから!」
耳まで真っ赤なジゼは、おこみたいです。
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