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リトの雷の夜

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 ドドガァシャァア──ン!!

「ぴゃー!」

 ふわふわのはずの耳としっぽをボワボワにしたリトが、跳びあがる。

 真夜中のリトのちいさな部屋の窓を雨粒が叩き、閃光が世界を染めた。

「あぅあうぁー!」

 バリバリバリィイイイイ──!

「ぴゃ──!」

 耳を押さえたリトは、涙目だ。

 なしゃけない。

 前世はこんなじゃなかった。
 もっと立派なおじちゃんだった。……たぶん!

 でも今のリトは獣人だ。
 ふわふわの耳は大変優秀で、ちいさな音まで拾いあげる。

 だからこそ大きい音は、爆音だ。
 いかずちの轟音は、もはや凶器だ。
 頭を中から揺さぶるような音と、ビカビカする光に、本能なのだろう、毛が逆立つ。

 ボワボワになったしっぽを抱えて、ちいさく丸くなったリトは、ふかふかの布団を頭から被って、ぷるぷるした。

「かみなりしゃま、おへそ、とったら『め!』でし!」

 涙目で叫んだ時だった。

 トントン

 ちいさなノックの音がする。

 こんな夜中にノック!?
 お化け!?
 お化けなの!?

「ぴゃ──!」

 お布団を被ったまま飛びあがるリトの部屋の扉の向こうから、声がした。

「……リト、起きているか? 酷い雷で、心配で──」

「ぴゃ──!」

 ふたたび跳びあがったリトは、お布団を被ったまま突進し、扉を開ける。

「ジゼしゃま──!」

 ばすん!

 ボワボワの耳としっぽとお布団に包まれたリトに突撃するように抱きつかれたジゼは、難なくその衝撃を抱き留めた。

「リト」

「ジゼしゃま、ジゼしゃま、ジゼしゃま──!」

 うるうるだった涙腺が、決壊した。

「あぅあうぁ──!」

 泣きじゃくるリトを、あたたかな腕が抱きしめてくれる。

「怖かったな」

 こくこく、こくこく頷くリトを、お布団の包みから掬い出したジゼは、いつもの3倍くらいにボワボワになったリトのしっぽに顔を埋めた。

 びっくりして跳びあがるより先に

 ドドガガガシャァアァン──!

「ぴゃ──!」

 ぎゅうぎゅうジゼに抱きついて、ぽろぽろ涙をこぼすリトを、ジゼの腕が抱きあげる。

「一緒に寝よう」

 ものすごいことを言われた気がする。

 あたたかな腕につつまれて、ジゼの、ものすごくいい匂いがする。
 ふんふんしちゃう。

 なのに、何もかもを撃ち壊す

 ビカ──っ!

「あぅあ──!」

 ドォオオォオオン──!

「ぴゃ──!」

 ボフボフになって、ちいさく丸くなるリトを、雷から守るように、ジゼの腕が抱きしめてくれた。





 ジゼの寝室にボワボワのリトを抱きあげて運んでくれたジゼが、ふかふかの白い布団でやさしく包んでくれる。

 ものすごい事態になっていることは、ぼんやり解っているのに、雷撃がこわくて実感が追いつかない。

「傍にいる」

 やさしい囁きが、ふってくる。

「……ジゼしゃま……」

 なしゃけない、みっともない、よわい僕を、つつむように、ジゼの腕が、抱きしめてくれる。


「リト」

 ジゼが名を呼んでくれる。
 僕がつけた、僕の名を。


 あなたが、呼んでくれるたび

 いかずちの閃きも、世界を劈く轟きさえ、遠くなる


 雷光じゃなく、あなたの瞳で
 雷鳴じゃなく、あなたの鼓動で

 心が、あなたでいっぱいになってゆくから


 燃える頬を、あなたの胸に、うずめる


「リト」


 どきどきが、破裂する

 雷なんて、もう、どこにもなくて

 あなたで、いっぱいになる



「……ジゼしゃま……」


 きゅう

 とろけた頬で、寝ぼけたふりで、あなたの背を、抱きしめる。


 あなたの腕が、背を抱いてくれる。



 眠ったふりの耳としっぽが、ほわほわ揺れた。








────────────

 間違って書いてしまったのですが、ちゃんと張り切ってお書きしたので、折角なので上げてみました!
 扉をブチ開けたジゼ版と違って、こちらのジゼは紳士でした……(笑)

 ジゼのと一緒に楽しんで戴けたら、とてもうれしいです。


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