もふもふ獣人転生

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泣かないもん!

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 お昼ご飯の後に足に治癒魔法をかけてくれるテデに、リトは相談してみた。

「お胸、ぎゅーっ、しゅりゅ! びょーき?」

 噛んだ!

 心配でぷるぷるしたら、舌も噛んじゃったよ。
 痛いよ。

 あわてたように胸の音を聴診器で聞いてくれたテデが唸る。

「心音は今は正常だけど、どんな時にぎゅーっとしたの?」

 リトはちっちゃな拳をにぎる。

「ジゼしゃま、お野菜、もぐもぐ、涙目だた!」

「…………………………」

 無言が痛いです。

「ちょこっと大人に近づいたんだよ」

 肩を叩かれた。

 そ、そなのかな?
 病気じゃなかった?




 お昼ご飯を終えたジゼは、魔法の鍛錬だ。

 午後からやってくる家庭教師とともに魔力の錬成や魔法の練習をするジゼのもとに、主人公アリアスが足の治療にやってくる。
 送迎の馬車はジェディス家から出ていて、ジゼは魔法鍛錬の手を止めて様子を見にゆく。

 毎日。


 いいことなんだ。
 ジゼがしあわせになってくれる。

 毎日、言い聞かせるのに、毎日、胸はぎゅうぎゅうする。


「足の具合はどう?」

 ジゼがアリアスの前に屈んで、細い足首を覗きこむ。
 月の髪がさらさら揺れて、アリアスの頬が赤くなる。

「随分良くなりました。ほんとうにお世話になって、ありがとうございます」

 丁寧に頭をさげるアリアスはとても愛らしくて、とても礼儀正しい。
 桜の花びらが、ひらひら舞った。

 ジゼの心象が、またちょっと良くなった。



 千切れる胸で、ジゼのしあわせを願う。



 丁寧にアリアスに頭をさげたリトのしっぽが揺れる。

「アリアスしゃま、いらさい、ませ。お茶、淹れるでし。芳蜜茶、いかがでし?」

 茶筒を開けて、香りを嗅いでもらう。

「すごいなぁ、リト。こういうお茶が飲みたいなっていう、希望どおりのを出してくれるよね」

「ありあと、ござまし」

 褒めてくれる。
 やさしい。

 いやいやいや、転生者は油断したら恐ろしいことに──!
 気を引き締める隣で、ジゼが微笑む。

「自慢の従僕なんだ」

 ごつごつの手が、頭をぽふぽふ撫でてくれる。
 見あげて、熱い頬で、ふわふわ笑う。

「ありあと、ござまし」

 ほわほわ、よろこびにしっぽが揺れる。

「ぐ──っ!」

 ジゼとアリアスが、胸を押さえた。

「はいはい、治癒魔法掛けますねー」

 いつもふつーなテデの頬が、ちょこっと赤い。
 



「今日もありがとうございました」

 テデの治療が終わり、桜の髪を揺らしてアリアスが笑う。
 その愛らしさに、リトはいつも目を瞠る。

 ふわふわのほっぺも、つやつやの唇も、おっきな桜の瞳も、かわいい。
 これぞ主人公、これぞBLゲームのセンターだ。

 ジゼの周りに桜が舞ってる。

 可愛いから! わかるよ!
 胸はぎゅうぎゅうするけど、涙目にならないようにお見送りだ。

「アリアスしゃま、お気、ちゅけて」

 噛んだ!

 いやもう常時噛んでるとか聞こえない。
 どこを噛んだのかさえ解らないとか聞こえない。
 アリアスが『この子噛んだよ』って顔を全然してくれなくて、まるで通常運転みたいにスルーされてるのとか見えないから。

 残念に思いながら、ふわふわの耳としっぽと一緒に、丁寧に頭をさげる。

「ぐ──っ!」

 ジゼと一緒にアリアスが胸を押さえてる。
 それを見たジゼの周りで、また桜が舞ってる。


 な、泣かないもん!


 ぎゅ、と目頭に力を入れて、拳を握ってしっぽをぽふぽふしたら、ジゼもアリアスもセバも胸を押さえてた。


 増えてる。




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