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ひとりじめ
しおりを挟むジゼしゃま、おこ!?
わたわたするリトを後ろに、ちょっとふくれた頬でお茶を飲んだジゼの瞳が見開かれる。
「……まじゅぃ、でし?」
ぺしょりと悄気る耳としっぽに、ジゼは首を振った。
「以前より、さらに香り高い。……リトが優秀なのはうれしいが……複雑だ」
拗ねて尖るジゼの唇に、おじいちゃん先生が笑う。
「ほほ、誰にも見せたくない、自分にだけ良さが解ればよいと願う独占欲は……ああ、まあ、ジゼさまなら喜ばれるやもしれませぬのう」
お髭を揺らしておじいちゃん先生が笑う。
拗ねたようにふくれた頬で、座ったままのジゼは、すぐ傍に立つリトを振り返る。
伸びたジゼの手が、リトの手を握った。
透きとおる蒼の瞳が、上目遣いで、リトを見あげる。
「……いやか?」
「ふぇ?」
首を傾げたリトの耳としっぽが、ぽふりと揺れた。
その軌跡を追うように伸びたジゼの指が、リトのしっぽの先にふれる。
「……独占したい」
ちいさな、ちいさな声だった。
真っ赤なジゼの耳が、月の髪の隙間から覗く。
ふつうの人間には、聴こえないから。聞こえなかったことにしたリトの耳が、燃える。
それがただの、自分の従僕が他の人に褒められたりするのがつまらないという、子どもっぽい独占欲でも。
身体の芯が熔けるほど、うれしいです。
「ジゼしゃま」
燃える頬で、あなたの名を、紡ぐ。
耳まで真っ赤なジゼが、ぎゅっとリトの手を握った。
「お昼ごはん、何、しましあ?」
熱い頬で伺ったら
「……たまごかけごはん」
ぽそぽそ朱い頬でつぶやくジゼが、至宝です──!
思わず拝んだ。
おじいちゃん先生が
「ほっほっほ」
楽しそうに笑ってた。
ふわふわ熱い頬のまま、ほわほわしっぽを揺らしたリトは厨房へとぽてぽて歩く。
扉を開けたら、厨房のにぎやかさに負けないように声を張った。
「ジゼしゃま、卵かけごはん、おねが、しましぁ!」
ごはんのある世界、最高!
リトのしっぽがぶんぶん揺れる。
「…………それ、昼飯なのか」
こわもての筋肉もりもりな料理長が、しぶいお顔だ。
「あい」
「ご要望なのか」
「あい」
「肉とか野菜とか、もりもり突っ込んでもいいのか」
「たぶん?」
「よし、承ったぜ!」
料理長がわるい笑みを浮かべている。
ゲォルグも邸にいる時は、一緒にお昼ご飯を食べる。
「ジゼのご飯はおいしそうだな」
卵かけご飯に、色とりどりのお野菜やお肉がもりもりしてる丼に、ゲォルグが羨ましそうだ。
「……え、いや……」
『思ってたのと違う』
顔に書いてあるジゼに、リトは胸を張る。
「料理ちょ、愛でし!」
「……そ、そうか」
ジゼの頬が、引き攣ってる。
ちょっといやそうに、ピーマンみたいな野菜をつんつんしてる。
「ジゼさま、リトが見てますよ」
セバがによによしてる。
「く──っ!」
もごもご、ピーマンもどきを口にしたジゼが涙目だ。
なんか、胸がぎゅうっとする!
あぁ!
胸を押さえたリトに、セバが笑った。
「リトもようやく、この癖を会得したようだな」
おお、胸を押さえるスキルを習得した!
でもこれ、ほんとに胸がぎゅうぎゅうするんだけど。
大変な病気じゃないのかな?
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