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おこ!?
しおりを挟む「いつも頭のなかに時計を入れておけ」
セバの教えだ。
ジゼが『ちょこっと疲れたかも』とか『甘いものが食べたくなったかも』とか思う前に、行動できるように!
いつもジゼが疲れやすくなる時間、甘いものが欲しくなる時間を把握して、呼ばれる前に動く!
しゃっと立ちあがったリトは、丁寧にお辞儀する。
「ちょと、失礼、しましあ」
「おう、行ってこい」
セバに見送られ、厨房に寄ったリトは、白いタワーになったお皿に甘いお菓子を貰う。
ジゼのすきなのと、今来てる教師がすきなのを厳選し、ちっちゃいサンドウィッチも載せてもらった。
「倒れねーように気をつけろよ!」
「あい!」
茶器と茶筒を用意して、沸かしたてのお湯をポットに詰めてカートに乗せたら、コロコロ引いて、ジゼの執務室に向かう。
そうっと扉を開けたら、ジゼの眉間に皺が寄る3秒前だ! ちょっと遅かった!
「遅く、なた、ごめなしあ。お菓子、お持ち、したでし。お茶、淹れぅ、でし」
瞬いたジゼが、ふうわり笑う。
「何のお茶を淹れてくれる?」
机、ジゼの表情、これからの予定、考えたリトはいくつか持ってきた茶筒からひとつを選んだ。
「蜜花茶、いかがでし?」
わずかに目を瞠ったジゼが、ちいさく笑う。
「頼む」
「いやはや、リト殿の仕事振りは素晴らしいですな。以前いらした侍従たちはジゼさまに自らのことや領地を売り込み、ご歓心を買うことにしか興味がなかった。
あれでは邪魔にしかなりませぬ」
白い顎髭を撫でながら、おじいちゃん先生が首を振る。
リトは、おじいちゃんの眉間に寄った皺と、今までのおこのみと、手を伸ばしたお茶菓子を確認して、持ってきた茶筒のひとつの蓋を開けた。
「白花茶、いかがでし?」
香りを確かめた教師が微笑む。
「おぉ、お願いしましょう」
「かしこま、ましあ!」
ぴょこんと跳ねるしっぽに、ジゼが胸を押さえてる。
お茶の蒸らし時間と温度とを把握し、動きが流れるようになめらかになってきたリトは、ひとつずつしか淹れられなかったお茶を、最近ふたつ同時に淹れられるようになった。
砂時計をひっくりかえし、ティーポットにお湯を注いでティーコージーをかぶせ、もうひとつの砂時計との時間の差分の砂時計をひっくりかえし、ティーカップをあたためる。
差分の砂時計が落ちたら、もうひとつの砂時計をひっくりかえし、お湯を注いでティーコージーをかぶせる。
ひとつめの砂時計が落ちきって、くるくるくる、三回したら、ティーカップにお茶を注ぐ。
音を立てないように指をそえて、そっと白磁の器に紅の水色が揺れるお茶を差しだした。
「白花茶、どうぞでし」
おじいちゃん先生にお出ししたら、もうひとつの砂時計が落ちきる。
くるりと一回掻き混ぜて、ティーカップにお茶を注ぎ、ジゼの前に音を立てずにおく。
「蜜花茶、どうぞでし」
「ほほ、熟練の執事の振舞いですな」
にこにこするおじいちゃん先生が、お茶に口をつけ、目を瞠る。
「……これはまた、うまい」
おじいちゃん先生の賛辞に、ちょっとふくれた頬で、ジゼはお茶を啜った。
……ジゼしゃま、おこ……!?
なにか、まちがた!?
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