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むん!
しおりを挟む昔は切ない食生活だった。
しかし!
今世のリトは、ジゼのおかげで、こんなにも清潔なぴかぴかの厨房で、料理長のおいしいご飯を食べられます!
「ありあと、ござまし」
感謝をジゼと料理長にささげるリトの耳としっぽがほわほわ揺れる。
「うまうま」
ふわふわぬくい頬で、お匙を噛みしめたら
「ぐ──っ!」
料理長も料理人の皆も、胸を押さえてた。
リトも真似して、胸を押さえてみた。
ゲォルグの食器を下げてきたセバが、生温かい目でリトの頭を撫でてくれた。
朝ご飯が終わると、ジゼは更にお勉強の時間だ。
家庭教師がやってきて、国のことや他国のこと、今までの世界の歴史、領地経営について講義をしてくれる。
リトはお傍に控えていて、資料や紙やインクをそろえたり、ジゼの頭が煮えそうになる前に
「お茶、いかがでし?」
ジゼと教師にお茶を淹れる。
お茶を淹れたあとは、紙やインクの補充具合を確認、問題がないと、ジゼの寝室に戻ってお掃除だ。
お洗濯は、お洗濯屋さんがしてくれるので、丁寧に畳んだシーツやタオルや下着や衣などを提出する。
……いやほんとうはジゼの下着とか……もう犯罪と鼻血の匂いしかしない感じなんだけど、それをしたらもうほんとうにファンとして終了というか、獣人としてダメだと思うから、何とか、何とか堪えてる!
でもふんふんしたい!
獣人だから!
泣きそうになりながら、いつもお洗濯を提出する。
「よ、よろし、おねが、しまぅ……」
「あ、ありがとう、ございます?」
いつも号泣しそうなリトに、お洗濯屋さんは、いつも不思議そうな顔をしてる。
お天気の日には、リトはジゼの枕とお布団はベランダに干してふかふかにする。
ベッドのマットレスも、ベランダで立てかけて風を通す。
「うわ、そんなのまでしてるのか。重いだろ」
覗いてくれたセバが目を剥いて、リトはふるふる首を振った。
「獣人でし、力持ちでし!」
むん!
力こぶを作ってみた。
ちょこっと盛りあがった。
セバが胸を押さえて、うずくまってた。
ジゼの寝室のお掃除が終わると、教師をお見送り、またやってくる教師をお迎えし、お茶を淹れる。
紙とインクと資料を確認したら、リトはセバと一緒に、セバの執務室でお勉強だ。
現代文字、古代文字、精霊文字、文字だけで三つも! しかも超絶ややこしい。
漢字が可愛く思える。だって絵だよ、描けないよ。
涙目だ。
でもジゼの傍にいて、ジゼの歯磨きしたり、お顔を洗ったり、髪をブラッシングしたり、料理長の愛の青汁をおすすめしたりするために、がんばる──!
「おぉ、燃えてるな」
セバが楽しそうに唇の端をあげる。
「がんばるでし!」
ちっちゃい拳を掲げたリトは、文字を憶えながらも、時計をいつも視界に入れている。
獣人の視野は広いみたいで、たぶん人間の時よりいっぱい見える。
人間の視野は両眼で200度くらいだけど、今、300度くらい見えてる気がする。
真後ろが、さすがに見えないかな? でも気配は解るよ。
目が横についてる訳じゃなくて、ちゃんと前に目があるんだけど、気配? なんとなく見えるのです。
獣人、すごいのです!
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