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これからなのです
しおりを挟む「あ、そだ、リト、これ作ってみたんだよ。林檎入り。ジゼさまに、どうかなあ?」
こわもてで筋肉もりもりの料理長が持ってきてくれたのは、輝く緑色の青汁だ。
見るからに物凄く体育会系なおじちゃん料理長は、繊細な料理で味覚でも視覚でも楽しませてくれると大絶賛で、ジェディス家の晩餐は帝都でも評判だという。
そのこわもて料理長が、林檎と一緒にジゼが大きらいな緑の菜っ葉をわんさか粉砕して、青汁をわざわざつくってくれたという。
野菜が苦手なジゼのために!
料理長の愛が籠もった、毒々しい緑色の青汁が、朝の光にきらきらしてる。
皆から愛されるジゼ、尊い。
「料理、ちょ、ありあと、ござまし、おすすめ、しましあ!」
「おお、頼むぜ、リト!」
ふわふわ揺れるしっぽと一緒に、料理長の愛の青汁をジゼにお勧めしようと胸を叩いたリトは、ジゼの執務室へと戻る。
ジゼはお勉強の時間だ。
リトはジゼがどんな執務をしているのかちょこっと見ながら、要らなくなった資料を片づけたり、必要な資料を持ってきたり、領地に指示書や質問書を送る手配をしたりしつつ、ジゼの様子を観察する。
ややこしい学説や、領地の頭の痛い問題にジゼの眉根が寄る前に
「ジゼしゃま、お茶でし」
明光茶を淹れて、そっとお出しする。
瞬いたジゼは
「ありがとう、リト」
口をつけて、目を閉じる。
ほんのり笑みが唇に浮かんで、眉間がやわらかに開いてく。
「リトはよく気がつくな」
ふるふるリトは首を振った。
「セバ、教え。セバ、すごぃ!」
ぱちぱち拍手して、しっぽをぶんぶんするリトに、赤くなったジゼは頷いた。
「あぁ、うん、セバが家令になってくれてから、父上の執務は非常に楽になったようだよ。寝不足も進行してるようだけど」
喉を鳴らしてジゼが笑う。
「ねぶそく?」
首を傾げるリトに、ジゼの眦が朱くなる。
「……うん、俺たちは、これから」
赤い頬で、ジゼが手を握ってくれる。
「あい!」
ぎゅ
握るジゼのごつごつの手が、世界で一番、愛しい。
ジゼのお勉強が終わったら、朝ご飯だ。
ジゼの父ゲォルグと一緒に食べる。
ジェディス家の餐の間は筆頭侯爵家としてはびっくりするほどこじんまりしている。
テーブルの端っこと端っこで遠くで食べても家族一緒の食事じゃないからと、わざと部屋とテーブルをちっちゃくしたらしい。
白いクロスのかけられたテーブルの上座、奥の窓側にゲォルグが、その隣の辺にジゼが座る。
お母さんがいないっぽいのは、聞いたらだめなのかと思って聞いてない。
設定には微塵も出てこなかった、と思う。
攻略対象の両親が出張ってくるのは王子くらいなのかも。
家令はあまりしないらしいけど、ゲォルグの給仕をするのはセバだ。
ジゼの給仕をするのは、ありがたく勿体ないことに、リトだ。
「ジゼしゃま、お飲み物、こちら?」
料理長渾身の毒々しく輝く青汁をおすすめしてみた。
リトの期待の目に、ちょっと引き攣ったジゼが頷く。
「……あ、あぁ……飲んで……み、る……」
ひくひくする口元を隠すように目を伏せるジゼに、リトは胸を張った。
「りんご、入てる、でし。飲みやすぃ、でし!」
ジゼが大きらいな野菜もたっぷりの青汁を注ぐ。
鼻を摘みそうな勢いで、ぎゅっと目を閉じ、ぐっと呷ったジゼの瞳がまるくなる。
「……うまい」
「料理ちょ、よろこぶ、でし!」
ぽふぽふ揺れるしっぽに、ジゼが笑った。
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