43 / 182
あまいのです
しおりを挟む寝起きのジゼのあまりの尊さに思わず跪きそうになったリトは、あわあわ足に力を籠めた。
「……起きた、ほうび」
すねた頬でリトを見あげるジゼに、頬がとろける。
「ジゼしゃま、よく、がんば、ましあ」
……ほんとに、ふれても、いいのかな……
指を伸ばすたび、ためらうリトを解ったみたいに、ジゼが頭を傾けた。
リトの指に、月の髪が、ふれる。
さらさらの、やわらかな、ジゼの髪を、そうっと撫でる。
「……ジゼしゃま」
月の髪をなでなでしたら、ふうわり眦に朱を刷いたジゼが、上目遣いで見あげてくれる。
「……もっと」
「あい、よく、がんば、ましあ」
いつもジゼが撫でてくれるみたいに
そっと、そっと、やさしく、やさしく
ジゼの頭を、なでなでする。
ほんのり赤い頬で目を閉じてしまうジゼの頬に、そっと指を滑らせる。
「寝たら『め』でし、ジゼしゃま」
「……うん」
伸びたジゼの指に、なでなでしてない方の手を掴まれた。
きゅ
握ってくれるから
ぎゅ
握ってしまう
「お茶、冷める、でし」
「……も、ちょっと」
ぎゅ
絡まる指が、繋がって
燃える頬で、ジゼの頭をなでなでする。
「ジゼしゃま」
あなたの名は、甘くて、苦くて
でもやっぱり、とびきり、あまいのです
リトのお仕事は、ジゼの身の回りのお世話をすることだ。
「あー」
口を開けてくれるジゼの歯磨きをしたり
「失礼、しまし」
ジゼの輝くようなご尊顔を、丁寧に洗ったり、ふかふかのタオルでぽふぽふしたり
「痛く、ない、でしあ?」
月の髪を丁寧にブラッシングする。
ぴょこんと跳ねた寝ぐせは拝みたくなるくらい可愛いけど、丁寧に根元を水で濡らして直してゆく。
「お着換え、しまし」
装飾の殆どないシンプルなジゼの衣を着せるのも、リトの役目だ。
最愛の推しに、こんなにふれられる仕事があるなんて……!
拝んで鼻血を噴きそうになるから困る。
至福で熔けそうだ──!
「ありがと、リト」
はにかむように、ジゼが笑ってくれる。
それだけで、一億年生きていけると思う。
朝のお仕度が終わると、リトのお伺いの時間だ。
「朝ご飯、何しましあ?」
「うーん、今日は鳥のお粥かな」
「かしこま、ましあ!」
ご要望を承ったリトは、ぽてぽて厨房へ向かう。
テデが毎日治癒魔法を使ってくれるからか、引きずる足がちょこっとずつマシになってきた気がする。
ありがとう、テデ!
感謝しながら厨房へ顔を出す。
忙しそうに立ち働く料理人たちの前で、いくつもの大きな鍋が湯気をあげ、いい匂いを振りまいた。
くつくつ煮える音と、トントン切る音、朝から元気のいい料理人たちの声が響いてく。
負けないように、リトはちいさな胸に息をいっぱい吸い込んで、声を張る。
「おあよ、ござまし、リトでし。ジゼしゃま、朝ご飯、鳥、お粥でし!」
「おー、おはよー、リト」
「りょーかい!」
「果物もつけとくな!」
最初は
『獣人って獣なんだろ?』
『凶暴だって』
『言葉が通じないんじゃ?』
戦々恐々としてた料理人の皆さんも、リトがふつーだと解ってくれたみたいだ。
やさしくしてくれる。
感謝しかない。
「ありあと、ござまし!」
丁寧に頭をさげるリトと一緒に、耳としっぽがほわほわ揺れる。
「うぅ──!」
厨房の皆さんが、胸をおさえた。
1,912
お気に入りに追加
3,463
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
異世界転生して病んじゃったコの話
るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。
これからどうしよう…
あれ、僕嫌われてる…?
あ、れ…?
もう、わかんないや。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
異世界転生して、病んじゃったコの話
嫌われ→総愛され
性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…
【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!
福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。
まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。
優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ…
だったなぁ…この前までは。
結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!??
前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。
今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。
【完結】伝説の勇者のお嫁さん!気だるげ勇者が選んだのはまさかの俺
福の島
BL
10年に1度勇者召喚を行う事で栄えてきた大国テルパー。
そんなテルパーの魔道騎士、リヴィアは今過去最大級の受難にあっていた。
異世界から来た勇者である速水瞬が夜会のパートナーにリヴィアを指名したのだ。
偉大な勇者である速水の言葉を無下にもできないと、了承したリヴィアだったが…
溺愛無気力系イケメン転移者✖️懐に入ったものに甘い騎士団長
【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活
福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…?
しかも家ごと敷地までも……
まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか……
……?
…この世界って男同士で結婚しても良いの…?
緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。
人口、男7割女3割。
特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。
1万字前後の短編予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる