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隠しキャラじゃないのです
しおりを挟む桜の花びらを拾ったリトは、足を避けて協力してくれたうえに、近くの桜の花びらを拾ってくれる主人公アリアスに頭をさげる。
ぴょこんと一緒に、しっぽが揺れた。
「ありあと、ござまし」
「うっ──!」
ほんのり赤くなったアリアスが、胸を押さえた。
大流行な癖!
「……リト?」
不思議そうにジゼが首を傾げる。
「何を拾ってるの?」
テデも、セバもきょとんとしてる。
「…………え?」
リトとアリアスは、顔を見合わせた。
「……桜の、花びら……」
アリアスが集めた花びらと、リトが集めた花びらを掌にのせて差し出す。
リトの手を見つめたジゼは、首を振る。
「何も見えない」
ジゼの言葉に、凍りついた。
「……え?」
振り返ったテデもセバも、首を振ってる。
「何にもないよ」
「幻覚が見えるほど知識を詰め込みすぎたか?」
心配してくれるセバに、あわてて首を振ったリトは、掌に確かに存在する桜の花びらに、息を呑む。
ちゃんと、触感もある。
重みも、ほんのりある。
なのに、皆には、見えない……?
アリアスは『邂逅イベント』叫んでた。
きっとゲームの記憶がある、転生者だ。
リトよりもずっと正確な記憶を持っている可能性が高い。
──桜の花びらは、もしかしたらゲームをクリアした人にだけ、見ることができる……?
でもリトの記憶はオープニング映像と、セバ×ゲォルグ、ゲォルグ×セバ問題くらいの曖昧さで、役に立つかどうかさえあやしい。
それにリトは、ジゼの従僕だ。
アリアスの恋路には、何の関係もない。
転生者だと知られると、やさしい人なら仲良くしてくれるかもしれないが、こわい人だった場合、ものすんごく目の敵にされて大変なことになると、転生もののお話で読んだことがある!
ここはバレないように、そっとしておこう。
「お片し、しましあ」
そっと桜の花びらを握り込んだリトに、アリアスの桜の瞳が不思議そうにリトを見た。
「……ゲームでは、いなかったよね? もしかして隠しキャラ? いや僕、フルコンプしたし──」
前世情報ダダ漏れだよ、主人公!
ジゼに拾ってもらって従僕にしてもらっただけなので、隠しキャラでは全くないよ。
モブでさえないから安心して!
言いたいけど、きゅっと唇を引き結ぶリトの隣で、ジゼ、テデ、セバの頭のうえに『?』が踊ってる。
「あ、あのあの、お茶、淹れ、まし。アリアスしゃま、おこのみ、は?」
話題を変えてみた!
「あ、あぁ、えと、甘いのあるかな?」
「あい!」
茶筒の棚にぽてぽて駆け寄ったリトは、ほんのり甘くて香りのよいお茶を幾つか選び、アリアスの前で蓋を開けた。
「おすきな、香り、あり、ましか?」
ひとつひとつ、茶筒に鼻を寄せたアリアスの唇がほころんだ。
「これ」
「かしこま、ましあ」
あまり淹れたことのないお茶だけれど、セバが叩き込んでくれたので問題ない、はず!
思っていても、ちらっとセバを見てしまう。
セバが微笑んで頷いてくれたら、耳としっぽがほわほわ揺れた。
「く──っ!」
アリアスが胸を押さえてる。
「くるし? くせ?」
「あ、あぁ、うん、癖だから気にしないで」
微笑んで掻きあげる桜の髪がさらさらだ。
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