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ひゃっはー

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 はじめてのおでかけで、ジゼにリボンをおねだりしたリトに、護衛の衛士は渋い顔だ。

 獣人のリトがジゼのお傍に仕えているだけでも面白くないのに、主から何かを買ってもらおうだなんて論外の卑しさなのだろう。

 それはリトも解ってる。
 でもジゼが贈ってくれたものを着けてみたい誘惑に抗えなかった!

「あ、あの、分、不そーおー、ごめ、なしぁ」

 あわてて頭をさげたリトを、ジゼの腕が抱きしめた。

「そんなことない!」

 叫んだジゼが手を伸ばす。

 ジゼが選んでくれたのは、透きとおるような淡い蒼の硝子細工をあしらった、やわらかな蒼のリボンだった。

 ジゼの瞳の色だ。

「……これを、つけて、くれる、か……?」

 燃える頬で、手を伸ばす。

「あい! 一生、大事、しましゅ、ジゼしゃま!」

 とろけて笑うリトの後ろで、セバが店主にお金を払おうとしてくれた時だった。

「ひゃっは──!」

 セバが出したお財布に、スリの手が伸びる。

「こんなトコで貴族の金持ちが買い物かよ!」
「ありえねえカモだぜ!」

 ……いや、うん、セバに手を出すお前たちがありえないと思うよ。

 リトが思う間もなく

「ぎゃあぁァアァ──!」

 スリたちが吹っ飛んでゆく。
 銀縁眼鏡を輝かせ、華麗な蹴りを繰り出したセバが、にこりと笑った。







 セバが吹っ飛ばしだスリが落ちた先は、愛らしい少年の上だったらしい。

「ぐはぁ──!」
「何ぶつかってきてやがる!」
「骨が折れたァア! 治療費寄こせぇえ──!」

 可愛い男の子を圧し潰しておいて言う台詞か?

 リトがしっぽをボワボワにして激高するより、セバとジゼの跳躍のほうが速かった。

 …………え、今、光になった…………?

 ぽかんとするリトの前で、スリたちの顔面が腫れあがって後ろ手で縛られてた。
 何がどうなってるのか見えないくらい、一瞬でボコボコにされてた。
 瞬きの間に、全身が赤黒い茸の山みたいに!

「あばばばば」

 ビビったのはリトだけではないらしい。
 助けてもらった筈の少年も『あばばば』してた。

「あ、あの、危ないところをたすけていただき……」

『たすけてくれたんだよね?』
『こっちまでポコポコにしないよね?』
 ふるえる少年の心の声が聞こえるような桜色の瞳に見あげられたセバは、完璧な家令の顔で、あざやかに腰を折る。

「申し訳ございません、蹴り飛ばした後の軌道を読み、その先の安全を確保してこそジェディス家の家令でございますのに、あなたがいらっしゃる方に墜としてしまうなど」

 ……それって家令の任務の範囲なのかな?


「い、いえ! ぼ、僕が突然飛び出したからいけないんです、ごめんなさい!」

 あわてたように頭をさげる少年の桜色の髪が、ほわほわ揺れる。

「お怪我はございませんか?」

 心配そうに眉をさげるセバに、少年は元気に頷く。

「はい!」

 颯爽と歩こうとした少年は、がくりと頽れた。

「……っ!」

「見せてくれ」

 少年の足元に屈んだジゼは、月の眉を顰める。

「衝撃で捻ったんだな、かなり腫れてる。これは我らの咎だ。治療をさせてほしい」

 ジゼのかんばせと、少年の顔が近づいた。

 見開かれた桜の瞳が、ジゼを見あげる。


 真っ赤になる少年に、リトの胸が、ぎゅうっと軋んだ。







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