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まねっこ

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「どうだった!?」

 ジェディス邸の玄関まで迎えに出てきてくれたセバに、ジゼに手を借りて馬車から降りたリトはしょんぼり、しっぽを垂れる。

「……きもちわるいって……」

「さすがルァルさま、酷い言葉の選び方だ」

 喉を鳴らしてセバが笑う。
 くしゃくしゃリトの頭を撫でてくれたジゼは、お茶会の氷の瞳が嘘のように微笑んだ。

「リトの茶は、最高だった」

「ジゼしゃま」

 こわい顔ばかりしてたから、おこなんだと思ってたよ。

 すんすん鼻を啜ったら、眦に朱を刷いたジゼが胸を押さえる。

 癖だよ。
 大流行だよ。

 笑ったセバは銀縁眼鏡を光らせた。

「皆さまの評価は?」

「上々だ。セバとリトの努力の賜物だな。何か褒美を」

 ぽふぽふ頭をなでなでなでなでしてくれるジゼを見あげたリトは、首を傾げる。

「僕、失敗、ちがぅ?」

「リトはとてもよくやった。……上出来過ぎて、皆に目をつけられたがな」

 忌々しそうに吐息するジゼにセバが笑った。

「侮られ、蔑まれるよりずっとよいでしょう」

「ああ。感謝する、セバ」

「勿体ないお言葉、ありがたく頂戴致します」

 胸に手をあてたセバが、やわらかに腰を折る。

「賑やかだな。帰ったのか」

 玄関ホールの奥に設えられた、ゆるやかに曲線を描く階段を降りてきたゲォルグが、ぽふりとジゼの頭を撫でた。
 くすぐったそうに首をすくめるジゼの耳の先が、ほんのり朱くなる。

「今日は次期帝王と茶会だったか。リトの初出仕は?」

「お褒めのお言葉を賜りました。私が伺う際はリトを連れてくるようにと。差別の根絶にもなると仰せです」

 リトを見つめ、誇らしげに胸を張るジゼに、ゲォルグが微笑む。

「よくやった、リト」

 ジゼよりもごつごつの大きなケォルグの掌が、リトの頭をなでなでしてくれる。

「おお! ふあふあだな!」

 とろけて笑うゲォルグに

「父上」

 拗ねたみたいにジゼの唇がちょこっと尖った。


「わがきみ、わたくしにお言葉は?」

 拗ねたみたいに銀縁眼鏡の向こうから見あげるセバに、ゲォルグが声をたてて笑う。

「よくやった、セバ」

 ごつごつの手がセバの頭を撫でて、頬を、おとがいを、首筋をやわらかに辿った。

 蘇芳の瞳が、あまく揺れる。
 うっとりゲォルグを見あげるセバの唇が、ほんの微かに開かれた。


「──っ!」

 耳まで真っ赤になったジゼが、叫ぶ。

「そういうのは、ふたりきりの時になさってください!」


 ぎゅう、と抱き込まれ、目隠しされたリトは、ジゼの胸に火照る頬を押しつける。

 前世はおじちゃんだったので
『その先をめちゃくちゃ生で見たかった!!』
 とか言ったら絶対だめなのは理解した!


「ジゼしゃま」

 もごもご見あげたら、リトの頭を撫でてくれたジゼの指が、頬にのびる。

 そっとふれる指先が、おとがいを、首筋を、そうっと辿りゆく。


「ふぇ……!」

「あ、す、すまない……!」

 あわてたように指が離れて、リトはぶんぶん首を振った。


「……ち、ちがぅ、の……あの、び、くり、して……」

「リト」


 ぎゅう

 抱きしめられる。



 早鐘のようなジゼの鼓動が、重なる胸に響いてく。


 とくとく鼓動が駆けてゆく。


 頬が燃えて

 指先が熱くて


 そっとジゼの背に手を伸ばした。








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