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ぶんぶん
しおりを挟むお茶に口をつけたノァとカィトが目を瞠る。
「な、に、これ──!」
「これは……紅蓮茶、なのか……?」
ノァの悲鳴とカィトの茫然とした呟きに、リトは跳びあがる。
セバが折角、渾身の力を籠めて教えてくれたお茶なのに、失敗した……?
「あ、あぃ、ノァしゃま、黒老茶、カィトしゃま、紅蓮茶、おこのみ、ちがぅ……?」
しょぼんとするリトと一緒に、耳としっぽがぺしゃりと垂れる。
白い円卓に突っ伏してぷるぷるするルァルを、ジゼの氷柱の目が刺してる。
「……お茶って、こんな香りがするものなんだ……」
「こんな味になるんだな、初めて知った」
ぽかんとしながらお茶を啜るふたりを、リトはそうっと見あげた。
「……だめ、でしか」
ぺしょぺしょになる耳としっぽにルァルが悶えて、ちょっと赤くなったノァとカィトはふたりで顔を見合わせた。
「初めての味と香りで、びっくりしたんだ。今まで飲んでたお茶と、別物で」
いじわるな粘っこさを消したノァが、ちいさく笑う。
「茶を味わったことがなかったから、驚いた。紅蓮茶は、ほんとうはこんな味がするんだな」
青磁の瞳でお茶を見つめたカィトは、不思議そうに首を傾げた。
瞬くリトに、円卓から起きあがったルァルが唇の端をあげる。
「俺のこのみを完璧に憶えてくれた従僕と、同じ味をリトは出した」
「?」
右に傾げる首と一緒に、ぱたりとしっぽが右に揺れる。
「凄まじいということだ」
「?」
左に傾げる首と一緒に、ぽふりと尾っぽが左に揺れた。
「ぐぅ……!」
赤い頬で胸を押さえたルァルが吐息した。仕方なさそうに告げる。
「セバが」
「あい!」
しゃんとしたしっぽと一緒にこくりと頷くリトに、ノァとカィトが吹き出した。
「リトがすごいんだよ!」
粘着質だったことが嘘みたいに、ノァが笑う。
「初めて茶を美味いと思った」
微笑むカィトに、ノァとルァルが目を剥いた。
「カィトが笑った!」
照れくさそうな朱い眦で、カィトが目を伏せる。
ジゼの目が、ブリザードだ。
「じ、ジゼしゃま」
お茶、おいしく、なかった?
そうっと見あげたら、氷像のようだったジゼの瞳が、やわらかに細められる。
「いつだってリトのお茶は、最高だ」
伸びた手が、頭を撫でてくれる。
ぴょこんと元気になった耳としっぽが、ほわほわ揺れた。
「お褒め、おことば、ありあと、ござまし」
手を胸に、膝を折る。
ふわふわ笑ったリトは、あわててルァルとノァ、カィトに向き直った。
「お言葉、ありあと、ござまし」
膝を折るリトと一緒に、耳としっぽがぽふぽふ揺れる。
「……うちもひとり、獣人、欲しいな」
こぼれたノァの呟きに、カィトがおごそかに頷いてる。
楽しそうにルァルの陽の瞳が閃いた。
「ジゼ、参る折にはリトも連れて来い」
ルァルの言葉に、ジゼの目が細くなる。
不服そうにジゼが唇を開く前に、ルァルは告げた。
「獣人に対する差別を撲滅するにも丁度いい。返事は?」
ぶすっとふくれたジゼが、こうべを垂れる。
「御意」
拗ねたみたいな頬で、ぎゅっとジゼが、手を握ってくれる。
火照る頬で、ジゼの手を握った。
しゃんとしたいのに、うれしくて、頬が熱くて、繋がる指がうれしくて、しっぽがぶんぶんしてる。
ルァルも、ノァも、カィトまで、によによしてた。
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