31 / 168
ぶんぶん
しおりを挟むお茶に口をつけたノァとカィトが目を瞠る。
「な、に、これ──!」
「これは……紅蓮茶、なのか……?」
ノァの悲鳴とカィトの茫然とした呟きに、リトは跳びあがる。
セバが折角、渾身の力を籠めて教えてくれたお茶なのに、失敗した……?
「あ、あぃ、ノァしゃま、黒老茶、カィトしゃま、紅蓮茶、おこのみ、ちがぅ……?」
しょぼんとするリトと一緒に、耳としっぽがぺしゃりと垂れる。
白い円卓に突っ伏してぷるぷるするルァルを、ジゼの氷柱の目が刺してる。
「……お茶って、こんな香りがするものなんだ……」
「こんな味になるんだな、初めて知った」
ぽかんとしながらお茶を啜るふたりを、リトはそうっと見あげた。
「……だめ、でしか」
ぺしょぺしょになる耳としっぽにルァルが悶えて、ちょっと赤くなったノァとカィトはふたりで顔を見合わせた。
「初めての味と香りで、びっくりしたんだ。今まで飲んでたお茶と、別物で」
いじわるな粘っこさを消したノァが、ちいさく笑う。
「茶を味わったことがなかったから、驚いた。紅蓮茶は、ほんとうはこんな味がするんだな」
青磁の瞳でお茶を見つめたカィトは、不思議そうに首を傾げた。
瞬くリトに、円卓から起きあがったルァルが唇の端をあげる。
「俺のこのみを完璧に憶えてくれた従僕と、同じ味をリトは出した」
「?」
右に傾げる首と一緒に、ぱたりとしっぽが右に揺れる。
「凄まじいということだ」
「?」
左に傾げる首と一緒に、ぽふりと尾っぽが左に揺れた。
「ぐぅ……!」
赤い頬で胸を押さえたルァルが吐息した。仕方なさそうに告げる。
「セバが」
「あい!」
しゃんとしたしっぽと一緒にこくりと頷くリトに、ノァとカィトが吹き出した。
「リトがすごいんだよ!」
粘着質だったことが嘘みたいに、ノァが笑う。
「初めて茶を美味いと思った」
微笑むカィトに、ノァとルァルが目を剥いた。
「カィトが笑った!」
照れくさそうな朱い眦で、カィトが目を伏せる。
ジゼの目が、ブリザードだ。
「じ、ジゼしゃま」
お茶、おいしく、なかった?
そうっと見あげたら、氷像のようだったジゼの瞳が、やわらかに細められる。
「いつだってリトのお茶は、最高だ」
伸びた手が、頭を撫でてくれる。
ぴょこんと元気になった耳としっぽが、ほわほわ揺れた。
「お褒め、おことば、ありあと、ござまし」
手を胸に、膝を折る。
ふわふわ笑ったリトは、あわててルァルとノァ、カィトに向き直った。
「お言葉、ありあと、ござまし」
膝を折るリトと一緒に、耳としっぽがぽふぽふ揺れる。
「……うちもひとり、獣人、欲しいな」
こぼれたノァの呟きに、カィトがおごそかに頷いてる。
楽しそうにルァルの陽の瞳が閃いた。
「ジゼ、参る折にはリトも連れて来い」
ルァルの言葉に、ジゼの目が細くなる。
不服そうにジゼが唇を開く前に、ルァルは告げた。
「獣人に対する差別を撲滅するにも丁度いい。返事は?」
ぶすっとふくれたジゼが、こうべを垂れる。
「御意」
拗ねたみたいな頬で、ぎゅっとジゼが、手を握ってくれる。
火照る頬で、ジゼの手を握った。
しゃんとしたいのに、うれしくて、頬が熱くて、繋がる指がうれしくて、しっぽがぶんぶんしてる。
ルァルも、ノァも、カィトまで、によによしてた。
1,926
お気に入りに追加
3,214
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
異世界に召喚されて失明したけど幸せです。
るて
BL
僕はシノ。
なんでか異世界に召喚されたみたいです!
でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう
あ、失明したらしいっす
うん。まー、別にいーや。
なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい!
あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘)
目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話
かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた?
転生先には優しい母と優しい父。そして...
おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、
え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!?
優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!!
▼▼▼▼
『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』
ん?
仲良くなるはずが、それ以上な気が...。
...まあ兄様が嬉しそうだからいいか!
またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
転移したら獣人たちに溺愛されました。
なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。
気がついたら僕は知らない場所にいた。
両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。
この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。
可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。
知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。
年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。
初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。
表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる