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きもちは、ぴしっ
しおりを挟む「わるかった、折角だから茶を淹れてくれ、リト」
ルァルが名を憶えてくれたことに跳びあがったリトのしっぽが、ぶんぶん揺れる。
「あい!」
火照る頬で、胸に手をあてお辞儀する。
「おもしろくない」
ふくれるジゼに、カィトが目を見開いて、ノァは不思議そうに瞬き、ルァルの陽の瞳が面白そうに閃いた。
茶器と沸き立てのお湯を持ってきてくれた帝宮の従僕に会釈したリトは、あでやかな花が描かれた白磁のお皿に載ったお菓子を確認する。
帝宮の従僕がカートに載せて持ってきてくれた茶筒は、皆のこのみに合わせてだろう、三十はあった。
急遽連れてゆかれることになったお茶会だけど、セバが対策を立ててくれた。
きっとリトは珍しさからも、茶を淹れろと指名されるだろうと、出席する令息のこのみまで教えてくれたのだ。
攻略対象たちが手を伸ばしだお茶菓子と、セバから聞いたこのみとを照合、今日の顔色を観察し、この後の予定を思い出す。
ルァルは執務、カィトはルァルの警護続行、ノァは帰宅、ジゼは鍛錬、考えたリトは、ちいさな指で茶筒を選ぶ。
「ルァルしゃま爽風茶、ノァしゃま黒老茶、カィトしゃま紅蓮茶、ジゼしゃま蒼森茶、いかが、でし?」
ジゼ以外の全員が、目を剥いた。
「あ、あぁ、頼む」
「僕も」
「俺も」
「ありがとう、リト」
ルァルもノァもカィトも『解ってねえな、コイツ』って顔じゃないみたい。
よかった。
ジゼがほんのり笑ってくれたら、勇気百倍!
ぴこぴこ揺れる耳としっぽに気づかないまま、鼻歌があふれそうなのは慌てて堪えたリトが、お湯の温度を調整し、用意された砂時計をちゃんと使い分けてお茶を淹れてゆく。
毎日毎日セバが特訓してくれたから、リトがお茶を淹れる手順はもう指に馴染んできた。
セバには全然及ばないけど
『合格』
蘇芳の瞳を細めてセバが笑ってくれたから、がんばるのです!
「なるほど、破壊力だけではないと」
ノァが感心したように呟いて、ジゼは鼻を鳴らした。
「飲んでから言ってくれ」
「ほう?」
ハードルを上げないでください、ジゼさま──!
ちょっと涙目になったリトに、ジゼがわたわたしてる。
「面白いものが見れる」
ルァルが、ものすごく楽しそうだ。
「ルァルしゃま、爽風茶、ござ、まし」
ちっちゃな指を器の下に入れ、音をたてずに茶器を置く。
「よい香りだ」
持ち手に指を掛けたルァルは、ひと口含んで、瞠目した。
「……セバか」
「あい」
頷くリトに、ルァルの陽の瞳が細くなる。
「俺のこのみを知り過ぎているのも気持ちわるいと言っておけ」
ぴょこんと跳びあがったリトは、ぷるぷるしながら頷いた。
「あい!」
「ぐ──!」
無表情なはずのカィトが、胸を押さえてる。
「決闘する?」
ジゼの目が本気だ。
ノァに、カィトに、ジゼに、お茶を出す順番も間違わず、セバに教えてもらった最適な温度と時間で淹れたお茶を出したリトは、しゃんと立って皆の顔を見つめる。
春風に耳としっぽが、ほわほわするのは許してほしい。
ちゃんと力を入れて止めてるんだよ!
不可抗力だよ!
きもちは、ぴしっ!
実際は……ほわほわ……
ルァルが肩を揺らして笑ってる。
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