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つながる手

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 次期帝王との謁見に泣きだしそうなリトの頭を、伸びたジゼの手がなでなでしてくれる。

「回復した報告にな。リトが助かったのは、テデとルァル殿下のおかげだ」

 ──ああ、そうか、ありがとうございましたの御礼に行くんだ!

 理解したリトは、手を前にそろえて、丁寧に頭をさげる。

「ありあと、ござまし」

「ルァル殿下にな」

 微笑むジゼに、首を振る。


「ジゼしゃま、いない、僕、死んだ」

 微かに目を瞠ったジゼが、リトの顔を覗きこむ。
 ごつごつのジゼの手が、手を繋いでくれる。


「リトが生きていてくれて、うれしい」

 囁きが、降ってくる。


「ジゼしゃま、おそば、うれし、れす」

 きゅ

 ジゼの手を握る。

 ぎゅ

 ジゼが握り返してくれる。



「行こう、リト」

「え、え……!?
 い、いいい今から、でしか……!」

 仰け反るリトの手を、ジゼの指が引いてくれる。

「だいじょうぶ」

 燃える頬で、ジゼの手を握る。

「……あい!」


 手を繋いで邸を出ようとするリトとジゼを、眉をあげたセバが止めた。

「主と手を繋いで歩く従僕など、言語道断です」

「あぅ──!」

 ものすごくものすごくものすごくいやいや、そうっとジゼの手と繋がる指をほどこうとしたら

 ぎゅ

 握られた。


「ふん」

 鼻を鳴らしたジゼが、リトの手を繋いだまま歩く。

「……あるじ、しゃま」

 リトの手を握ったまま、ジゼが告げる。

「俺の従僕は、これでいい」

「あい!」

 ぎゅ

 ジゼの手を握る。

 ほんのり朱い耳朶で、ジゼが手を引いてくれる。






 白馬が牽いてくれる白い馬車がガタゴト揺れて連れてきてくれたのは、真っ白なお城だ。
 城を取り囲むように真っ白な尖塔が幾重にも連なり天を衝く。

「ゆ、えんち、みたい」

 ぽそりと零したリトは、あわあわ首を振った。
 不敬罪で首が飛んだら大変だ。

 ジゼが手を引いてくれるまま、馬車を降り、帝宮に足を踏み入れたリトに、視線が刺さる。
 ふわふわ耳やしっぽが揺れていたのが、ビシリと固まってしまうくらい、刺さる。

「あぅ……」

 ちいさくなるリトの手を、ジゼの手が引いた。

「顔をあげろ。差別は俺が許さない」

 ジゼは息を吸う。

「リトは俺の従僕だ」

 熱い痺れが、胸を満たした。
 ふるえた指先で、ジゼの手を握る。

「……わがきみ」

 ささやいたら、眦に朱を刷いたジゼが強く手を引いた。

「行くぞ」

「あい!」

 足を踏み出そうとしたら、粘つく声が降ってくる。

「これはこれは、次期ジェディス侯爵であらせられるジゼさまではいらっしゃいませんか。獣人の従僕とお手々を繋いで帝宮にいらっしゃるとは、斬新なお振舞いですね」

 長めの藍の髪をなびかせた子息が、うっそり笑う。

 見あげたリトの頭が、どことなく見覚えのある子息のまだ幼さの残る顔を成長させ、片眼鏡を想像上で試着してみて、チャカチャカチーン! 前世の記憶を弾き出した!

 攻略対象の、ノァ・ディオ・ロァルド次期公爵だ!


 最近ずっと頑張って勉強していたリトの脳細胞が活性化したらしい。

 獣人として生まれて扱き使われてる間、物を考えるということをしなかったので残念な感じになっていた頭が、前世の受験勉強を超える詰め込みに悲鳴をあげ、ノァの登場をきっかけに吐き出すように前世の記憶を思い出してくれる、よね……!?


 がんばるんだ、僕の脳みそ──!





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