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初仕事です

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 まだ12歳だというのに与えられているジゼの執務室で、最愛の推しの大すきなお茶、7種類をマスターしたリトは胸を張る。

「あるじしゃま、お茶、いれる、れす!」

 ぴんと耳としっぽが立って、ふわふわ揺れた。

 執務室に控える侍従たちがリトの姿に厭そうに眉を顰め、一瞬で何事もなかったかのような無表情になった。

 ジゼは胸を押さえてる。

「ジゼしゃま、くるし? くせ?」

「……癖だ。茶を淹れてくれ」

「あい!」

 両手を挙げたリトは、じっとジゼを見あげる。
 月の光の髪はさらさら、蒼の瞳はきらきら、透きとおるお肌はつやつやだ。

 あぁ、生きて動く最愛の推し──! じゃなかった!

 従僕たるもの、主人の執務の進行状況、現在の気分、これからの予定を考え、おこのみも考慮したうえで、最高の茶を選ばなくてはならない。

 ジゼの机は、ごちゃっとしてる。セバの机とは対照的だ。
 むつかしい執務をしているのか、書いたばかりなのだろう、インクの乾いていない紙があちこちで広げられていた。

 机のきれいさは、頭のなかの状態を表してると思う。
 つまり、今のジゼの頭のなかは、ごちゃっとしていて、ちょっとしんどい。

 今日の朝ご飯は、パンとベーコンエッグ、サラダとコンソメスープみたいなのだった。
 野菜と果物と鶏肉とパンを少しがジゼのいつもの朝ご飯だから、今日は味が濃い目、塩分多めの朝ご飯だった。

 鍛錬はいつもどおり。
 今日の予定は、確かこれから王宮で次期帝王とお茶会だ。

 王宮では最高の茶葉を最高に淹れてくれるだろう。
 セバが教えてくれた世界最高峰の茶葉を思い出す。
 ほのかに蜜の甘みさえ感じる、濃厚な味と香りのお茶だ。

 リトは、透きとおる蒼の瞳を見あげる。

「緑花茶、いかが、でし?」

 見開かれた蒼の瞳が、やわらかに細められる。
 対照的に侍従たちは眉を吊りあげた。

「は! 昼間に緑花茶とは。あれは朝一番に飲むお茶だぞ」

「セバ殿の教育が至らないのでは?」

「まさか、セバ殿は完璧な家令長です。学ぶほうに問題があるのでしょう」

 嗤う侍従たちに、リトはぷくりと膨れる。

「セバ、教え、くれまし。緑花茶、塩、排出、頭、すきり、元気、出る、味、爽やか、胃、健やか。あるじしゃま、王宮、胃もたれ。予防すりゅ」

 噛んだ!

 しょんぼり耳としっぽを垂れるリトに、侍従もジゼも目を剥いた。

「そこまで、考えてくれたのか」

「セバの、教え!」

 胸を張るリトに、まるくなったジゼの瞳が、やわらかにほどける。

「淹れてくれ、リト」

「あい!」

 両手を挙げたリトは、ぽふぽふしっぽを揺らしながら、ぴんと立った耳で、セバに教えてもらった通りのお作法でお茶を淹れた。

「お茶に毛が入りそうだな」

「絨毯が毛だらけになるんじゃないか?」

 ジゼには聞こえないように、ぼそぼそ呟かれる言葉に、しょんもりする。


 獣人は、人間じゃない。
 ものすごく、きらわれてる。

 当たり前だったことが遠くなるくらい、セバも、テデも、ゲォルグも、ジゼも、やさしくしてくれた。


 感謝の気持ちでいっぱいになったリトは、ちっちゃな拳をにぎる。


 ちょこっとでも、お役に立つのです。

 まずは、お茶から!






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