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はやいです
しおりを挟む「すべてのお茶を完璧に淹れられて当たり前。主が『ちょっと疲れたな、休憩したいな』って思う前に『お茶にいたしましょう』微笑めるようになれたら一流だ」
「ひゃあ!」
セバの言葉に、リトは仰け反る。
そうか『疲れたな』って主が思って、求められた時にお茶を淹れるんじゃ、だめなんだ。
主が疲れる前に、微笑んでお茶を勧める。
主の体調や執務の難度、これからの予定、何もかもを把握して、主の現在の気分と体調を改善する最高の茶葉を選択し、おすすめし、最高のお茶を淹れる。
「果て、なぃ──!」
仰け反るリトに、セバは色っぽい眉をあげた。
「おお、リト、もしかして可愛い振りして優秀だな? 最初っから、お茶くみの過酷さを理解するなんて偉いぞ」
セバのペンだこのある大きな手が、頭をなでなでなでなでしてくれる。
「いいか、従僕はお茶くみに始まり、お茶くみに終わる。これこそが基本であり、最高峰だ」
「あい!」
「とりあえずジゼさまのおこのみを伝える。体調によって変化するからな、これが難しい。とりあえず全部の茶を飲んで、自分なりに特徴を纏めろ。お茶の効能の一覧はこれだ」
セバが差しだしてくれたのは、手書きのお茶の銘柄一覧だった。
効能が解りやすくまとめられている、みたいだが、読めないよ!
日本語じゃなかった!
「あぅ……」
「怯むな。お茶ってのはな、毎年どんどん増えるんだ」
「あぁう──!」
頭をかかえたリトは、涙目でぽそぽそ告げる。
「読めな、でし」
「あぁ、そっちか、わるいわるい」
リトの頭をなでなでなでなでしてくれたセバは、幼児向けの字の本を持ってきてくれた。
「これを見ながら勉強しよう」
「あい!」
「紙ってのは高価なもんなんだが、ジェディス家では領地からの報告書が多くてな、不要になったものは裏を使っている。両面書いたら、煮溶かして再生紙にするんだ」
「おお」
機密情報の書かれた裏紙っぽいけど、節約大事。
拍手すると、セバは微かに目を瞠る。
「リト、やっぱり優秀だな。今の話をしても、解るのなんて殆どいねえよ」
は、反応、間違った?
『転生者特典です!』言えないので、ぱちぱちする。
「セバ、何でも、知てる、えらぃ!」
ふうわり眦を朱くしたセバが、ちいさく笑う。
「……ありがと、リト」
リトの頭をなでなでなでなでした長い指が、茶筒に伸びる。
「ジゼさまのおすきなお茶だ。淹れてみよう。砂時計はこれ。くるくるは3回」
「あい!」
両手を挙げたリトは、はりきってお茶を淹れる。
沸かしたてのお湯がぐらぐらしてる鉄瓶を火傷しないようにミトンで持ち、きちんとティースプーンで計量した茶葉を入れた白い陶磁器のポットに注ぐ。
縁までお湯を注いだら、ポットにお布団みたいなティーコージーをかぶせ、素早く砂時計をひっくりかえし、その間にティーカップを残ったお湯であたためる。
じっと砂を見つめて耳としっぽを同じ方向にふりふりするリトに、後ろでセバがぷるぷるしてる。
「落ちた!」
さっとティーコージーをとり、ティースプーンで、くるくるくる、3回したら、ティーカップに注いだお湯を火傷しないように気をつけて捨てる。
あたたまったカップに、そうっとお茶を注いだ。
あざやかな紅の水色が、白磁を染める。
「でき、た! ジゼ、しゃま──」
飲んでくれるかな?
言い終わるより先に
バァン──!
扉が開いた。
「飲もう」
……反応速度がおかしすぎる……?
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